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第228話

紗希は頷いた。

二人は同時に先ほどまでの話題を止めた。

彼女は窓の外の景色を見ながら、自分が手がけた結婚式の会場を思い出し、急に皮肉な気分になった。

明日は詩織と拓海の婚約式の日だ。

彼女は目を伏せ、自嘲的な表情を浮かべた。

いつかこの日が来ることは分かっていたが、実際にその日が来ると、彼女の心はぽっかりと穴が空いた感じがした。

車が病院の外に到着すると、北は車を停めた。

「紗希、ここで少し待っていてくれ。仕事を早く終わらせたら一緒に出かけよう」

「大丈夫、北兄さん。私はまだスタジオに戻らなければならないの。今晩は早く帰って夕食を食べましょう」

北は彼女を見つめた。

「無理しないでね」

紗希は北が病院に入るのを見送った後、タクシーで私立病院に向かった。

なぜか突然、渡辺おばあさんに会いに行きたくなった。

今週は拓海と詩織の婚約式で、来週は渡辺おばあさんの手術だ。

詩織の力強い兄がいれば、渡辺おばあさんはきっと安全だろう。

それは今、彼女が唯一安心できることだった。

紗希は花を買って渡辺おばあさんを見舞った。

病室に入ると、ベッドで本を読んでいる渡辺おばあさんが見えた。

「おばあさん」

「紗希が来たのね。こっちに座りなさい。最近顔を見に来てくれなかったけど、そんなに仕事が忙しいの?」

紗希は目を伏せた。

「少し忙しくて、学校の授業も多いんです」

「そんなに無理しないで。どうせ拓海が一生懸命働いて家計を支えてくれるんだから、あなたはそんなに頑張らなくてもいいのよ。体を大切にしなさい。今はお腹に赤ちゃんがいるんだから」

紗希は心の痛みを押し殺して言った。

「分かっています。あばあさん、それより最近はどうですか?具合の悪いところはありませんか?」

「最近はとても元気だよ。むしろ妊婦のあなたのことが心配だね。紗希、お腹が大きくなったら、おばあさんの言うことを聞いて、スタジオに行かないでね。心配だから」

紗希はお腹に手を当てた。

「はい、約束します」

どうせ、お腹が大きくなって隠せなくなったそのときには、兄たちと一緒に大京市に帰るつもりだった。

大京市でこの子を産むつもりだ。

大京市はここからとても遠いので、拓海がどんなに調べても分からないだろう。

しかもそのときには、拓海と詩織は結婚しているだろうから、自分のことを
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