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第227話

詩織の声を聞いた瞬間、振り返ると、詩織が見えた。

ふん、詩織はきっと納得できなくて文句を言いに来たんだろう。

でも、紗希はここにいるわけにはいかず、逃げるのが一番だった。

紗希は大股で北の方へ走った。

北がまだここにいてくれてよかった。

北も詩織が出てくるのを見て、心臓が激しく鼓動した。

こんな時に見つかるとは思わなかった。

紗希を守らなければ!

今はまだ全てを明かす時じゃない!

あっという間に、紗希は助手席に乗り込んだ。

「北さん、早く行って!」

「分かった」

北は何も聞かずに、アクセルを踏んで走り去った。

詩織は信じられない様子で、去っていく車を見ていた。

しばらく反応できず、今の運転手が北だったのか、それとも彼女の見間違いだったのか分からなかった。

詩織は先ほど見た光景を思い出した。

考えれば考えるほどおかしい。

あれは間違いなく北だった。

見間違えるはずがない!

しかし、どうして北が紗希と一緒にいるの?

さっき紗希があんなに慣れた様子で北の車に乗って行った様子から、明らかに二人が知り合いで、初対面ではないことがわかる。

詩織の心に突然大きな不安が湧いてきた。

紗希はいつから北兄さんとこんなに親しくなったの?

紗希は直樹に養われているんじゃなかったの?

もしかして直樹が二人を紹介したのだろうか?

詩織は少し慌てながら、すぐに北に電話をかけたが、出なかった。

一方、車の中で、北は紗希を乗せてその場所から離れると、少しほっとした。

紗希が早く行こうと言ってくれてよかった。

詩織が近づいて質問してきたら、絶対にばれてしまうところだった。

北はそう考えながら、少し疑いの目で助手席の人を見た。

「紗希、どうしてこんなに早く出てきたの?」

紗希のさっきの表情は少し不自然だった。

さっきは北さんにばれそうになった。

もし詩織が追いついてきていたら、彼女と拓海の関係がばれてしまうところだった。

今日は6人の兄が全員家にいるので、もし自分が渡辺家から追い出されたことを知ったら、兄たちは絶対に殴り込みに行くだろう。

特に平野兄さんはあの気性の荒い性格だから、きっと問題を起こしてしまう。

「本当に危機一髪だった」

兄妹の心は、同じことを喜んでいた。

紗希は咳をして答えた。

「ここはもうほとんど準備が終わっ
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