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第184話

詩織は少し得意げに笑い、それから隣にいた紗希を見ると、心の中に僅かに不快感が湧き上がった。

詩織は口を開いた。

「玲奈、紗希を先に帰らせたら?後で拓海に会ったら、あなたのクレジットカードの限度額を回復することについて話しておくわ」

詩織は紗希に拓海に会って欲しくなかった。

特にこの重要な時期に。

玲奈は少し考えてから、頷いて言った。

「いいよ。紗希、あなたは帰っていいわ。ここではあなたの役割がないから」

紗希もここに留まりたくなかった。

本来、玲奈に無理やり来させられたのだから。

ちょうど、面倒くさいことから逃れられた。

紗希が応接室を出て行こうとしたとき、ちょうど隣の会議室のドアが開いて、たくさんの人が出てきた。

先頭を歩く男は暗い色のスーツを着ていて、その人柄もまた冷たく近寄りがたく、隣にいた裕太と何か話していた。

裕太は真っ先に彼女を見つけ、顔色を変えて言った。

「社長、奥様がいらっしゃいました」

拓海は無意識に頭を上げ、そこに立っていた紗希を見て、一瞬にして眉をひそめた。

なぜ紗希がこの会社に来たのだろうか。

彼は目に驚きの色を浮かべたが、顔には何も出さず、小さな声で言った。

「彼女を私のオフィスに連れて行って、私を待ってもらえ」

紗希がここに来るには、何か理由があるはずだ。

裕太は慌てて紗希のところに行った。

「若奥様、社長が事務室で待っていろと仰っています」

拓海を待つ?

紗希は目に疑問の色を浮かべた。

「実は私はただ通りがかっただけで、本当に彼を探している人は応接間にいるよ」

彼女は詩織がいるのを知っているのに、ここで自らを辱めるようなことはしたくなかった。

そう言うと、紗希は振り返ってエレベーターに向かって歩いて行った。

拓海は去って行った紗希を見つめ、薄い唇を引き締めた。

彼女はまた何か引っ掛けようとしているのか?

ここに来てただ去って行くとは、なんの意味があるのか?

その時、応接間のドアが開いた。

詩織は部屋から出てきて、嬉しそうに拓海に近づいた。

「拓海、お仕事は終わったの?」

しかし、拓海は詩織に目をやることなく、ずっとエレベーターのそばに立つ紗希のほうを見つめていた。

紗希は振り返らずにエレベーターに乗り込んだ。

そして、拓海と詩織が一緒に立っているのを見て、無表情に視線を
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