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第183話

紗希は玲奈が本当に引き返そうとしたのを見て、急いで言った。

「話し合えばいいじゃない。そんな風に冷静さを失わないで」

本当に養父母に再び関わりたくない。

大変だったが、なんとか古い住まいから引っ越してきたし、養父母はどんなに歯を食いしばっても、彼女には何も出来ない。

今の平穏な生活を再び破壊されたくなかった。

玲奈はすぐに得意げな表情を浮かべ、そのまま車を進めた。

しばらくすると、目の前に渡辺グループの建物が見え、まさか会社に来たとは思わず驚いた。

玲奈は専用駐車場に車を停め、得意げに言った。

「紗希、ここに来たのは初めてでしょ?あなたを連れて行って見物させてあげようと思って。あなたが渡辺家の若奥様の時にはここに来る資格がなかったし、今私が最後に連れて来てあげたのよ。感謝しなくていいわよ」

紗希は無表情で彼女を見つめた。

「実は一つ聞きたいことがあるんだけど」

玲奈は高慢に顎を上げた。

「どうぞ」

「どうしたらそんなふうにうまく演説できるの?」

紗希の言葉に、玲奈は今にも飛びかかってきそうな様子で言った。

「どういう意味?」

「お前の今さっきの口調派、まるでグループの社長みたいだったわ」

玲奈は怒って地団駄を踏んだが、紗希と一緒に拓海に会う必要があったので、この怒りは飲み込むしかなかった。

「ふん、無駄話はやめて。早く来なさい」

紗希はそれ以上何も言わず、玲奈についてエレベーターに乗った。

拓海の普段の仕事ぶりは、確かに高級感があふれており、さすが大企業だと感心したのを思い出した。

玲奈は最上階に直行し、秘書室の人に尋ねた。

「拓海兄さんはどこ?」

「社長は会議中です。まだ終わっていません。御用でしたら、応接室でお待ちいただけますか」

玲奈は表情が悪くなった。

「拓海兄さんのオフィスで待ってるね」

「申し訳ありません、玲奈さん。社長のオフィスは本人不在時には入室できません。ご了承ください」

玲奈はメンツをつぶされ、不機嫌そうに振り返った。

紗希は拓海が普段こんなに厳しいとは思わなかった。

渡辺家の人間である玲奈でさえここでは特権がないのだ。

彼女は皮肉な笑みを浮かべて言った。

「ほら、私の言った通りでしょ」

玲奈は少し落ち着かない様子で言い返した。

「何よ。あなたは以前ここに来る資格もなかっただろ。拓
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