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第8話

ランニングの列がぴたりと止まり、周囲の視線が私と母の間を行ったり来たりしていた。

私は人混みから歩み出た。母が私に数学を学ばせるわけがない。ましてや、私が数学の賞を取る姿など見たくもないだろう。

「諸谷先生、忘れたの?私を家から追い出したのはそっちでしょ」

「親子の間で揉め事があるのは普通のことよ。過ぎたことなんだから、もういい加減にしなさい」

感情論で訴える、これは母の得意技だ。

こう言われると、周りの知らない人たちはすぐに慰めの言葉をかけてくる。まるで、私が母との間にわだかまりを持つことが、全て私のせいに見えてくる。

誰も知らない。

私はこの何年も、生きることさえも苦しい日々を送っていたことを。

母が「私の母」と名乗るのは、こういった時だけだということを。

でも、今回は違った。

児島先生が列の最前列から息を切らせて駆けつけ、私を守るように後ろに引き寄せた。

「諸谷清良、この恩知らずめ!言っとくが、今日私と一緒に帰らないなら、これから先、一生大学入試なんか受けられないからな!」

「身分証明書は渡さない!大会にも出場する資格なんかない!いくら天才でも、何の意味もない!」

母は、私の急所を握りしめていた。どうすれば私を完全に壊せるか、よく分かっていた。

手が震え出し、感情が溢れ出しそうになったその瞬間。

児島先生が私の手をしっかりと握り、耳元でそっとささやいた。

「信じて」

「こちらの保護者様、特にご用がなければ、お引き取りください。さもないと、今すぐ警備員を呼びますよ。大事にしたくないでしょう?」

母が何よりも気にしているのは体面。だからこそ、かつて父を追い求めて失敗し、病気の祖母を置いて町に出て行ったのだ。

母は私を鋭く睨みつけた。

「絶対に試験なんか受けさせないから!」

体が力なく後ろに倒れた。

私は彼女に生まれたというのに、あんなに私を期待してくれていたというのに、最初は確かに愛してくれていたはずなのに。

いったい、いつからこうなったのだろう。

人はいつか、親が自分を想像通りには愛していないことを受け入れなければならない。

児島先生が私の手をしっかりと握り、その温もりで私は我に返った。

「身分証明書は再発行できるし、臨時の身分証明書も出せる。それに、最悪の場合でも公式に事情を説明すればいい。君は絶対に最高の数
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