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第3話

もしかしたら、愛されない子供は、生きているだけで大きな力を消耗するのかもしれない。

4、

私は母との関係が完全に決裂した。

それは、洋行が私に告白してきたときのことだった。

彼が赤面しながら、緊張した様子で「君のことが好きだ」と言ったとき、私は彼を利用して母の関心を引こうと考えたが、結局それはしなかった。

私は彼を拒絶したが、彼は諦めず、私の家に来る回数がどんどん増えていった。

部屋にラブレターを押し込むことさえあった。

その日、家に帰ると、母がラブレターを手にして待っていた。

何も言わないうちに、いきなり平手打ちをされた。

顔を押さえながら、私は疑問の表情を浮かべた。

母はラブレターを投げつけ、「洋行は東大を目指している子だ。あんたとは違うんだ!」と叫んだ。

「父親ですら見放された小娘が、私も構う義理はないのよ。それに私はあんたの担任じゃないし、ここから出て売春しても関係ないわ!」

「でも、よりにもよって私の生徒を誘惑するなんて!」

誘惑?

私は分からなかった、どうしてこんな言葉が母親という存在の口から出て来たのか。

しかし、やっていないことに認めるつもりはなかった。

「告白してきたのは彼の方だよ!」

たが、母は聞き入れなかった。

「口答えするんじゃないわよ。誘わなければ、彼が告白するわけない」と怒鳴った。

彼女は勢いで私の髪掴み、部屋に放り投げた。

そして私の服を掴み、ハサミで切り裂いた。

私は床に散らばった布の切れ端を見つめた。

彼女はおそらく、これらの服が従姉妹のお下がりであることを忘れていたのだろう。

従姉妹の優秀さは母が一番認めたものだった。

まるで、母の目には、私が生まれてきたこと自体が間違いだったかのようだった。

でも、私をどうしても生みたかったのは母自身だった。

5、

どうやって家を出たのか、もう覚えていない。

気がついたときには、もう父のマンションの下にいた。

私は父の新しい家族の生活にこれ以上迷惑をかけたくないと思ったが、偶然にも彼ら一家と出くわしてしまった。

小さな娘が父の肩に乗り、妻はニコニコと笑いながらその娘とじゃれ合っていた。

だが、私を見た瞬間、その笑顔は消えた。

私はどこにいても余計者のようだった。

逃げ出したくなったが、父が追いかけてきた。

私は声をかけようとしたが、何と呼んでいいのか分からず、「江崎先生」とだけ言った。

父は笑って頷き、カバンから二千円の札を渡してきた。

「これからはもう来ないでくれ。新しい家族がいるんだ。妹が嫉妬するだろう」

私は首を振って説明しようとしたが、背後から「パパ」という幼い声が聞こえてきた。

父はその声に反応し、娘を抱き上げて去って行った。

「パパ、あのお姉さんは誰?」

「友達の子だよ」

私は一人立ち尽くし、手の中で皺になった札をじっと見つめていた。

両親はまだ生きていて、会いたいと思えば会えるはずなのに。

でも、本物の家族私にはもういない。

彼らにとって、私は厄介者のようだった。

彼らが最も見たくない、思い出したくもない過去の象徴のように。

私が生きていること自体が、過去の愚かな出来事を何度も何度も思い出させている気がする。

6、

外でしばらくうろうろしていた。母が冷静になった頃だと思い、家に戻った。

すると、玄関に荷物が置いてあった。小さな箱が二つ。私の全ての持ち物がその中に入っていた。

ドアを叩いた。

「諸谷先生」

まだ未成年で、友達もほとんどいない私は、行く当てもなかった。

「いい加減にして!あんたは私だけの娘じゃないでしょ、父親のところに行きなさいよ!」

怒鳴り声の後、玄関のドアが鍵をかけられる音がした。

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