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第9話

右手の感覚がだんだんと薄れていく。

私は全力を振り絞って母を突き飛ばし、ふらふらと前へ走り出した。しかし、出血が多すぎて力が入らず、そのまま地面に倒れ込んでしまった。レンガを手にした母が一歩一歩私に近づいてくる。その顔には不気味な笑みが浮かんでいた。

私の右手がここで折れてしまうと思った瞬間、通りがかった大学生たちが私に気付いた。

母はその様子を見て立ち止まり、何事もなかったかのように後ろを向いて自転車に乗り、急いでその場を去った。

きっと神様も私を哀れんだのだろう。偶然にも、その大学生たちは医学部の学生だった。

彼らは誰かがすぐに120番通報し、他の人たちは簡単な応急処置をしてくれた。

結果、手は助かった。

しかし、しばらくの間、右手は使えない。

児島先生が慌てて駆けつけ、ギプスで固定された私の右手を見て目を赤くしながら、涙をこらえていた。

「無事でよかった、無事でさえいれば……」

彼女は頭を下げた瞬間、素早く手を拭って涙を隠した。今年、私がずっと準備してきたコンテストは本当に手が届かなくなってしまった。

麻酔がまだ効いているせいで、言葉を発するのも少し辛い。

「児島先生、左手でも字は書けますよ」

その瞬間、少しだけ安心した。母に閉じ込められていた幼い頃、何もすることがなくて、自分の手で遊んでいた。そのおかげで、私は左手も右手と同じくらい器用になったのだ。

そして、母にこのことを話さなかった自分に、改めて感謝した。もし父が左利きだということを母に伝えていたら、私の左手ももう使い物にならなかっただろう。

児島先生はもう我慢できず、私を抱きしめて大声で泣き出した。

「辛いことはあるけど、いつか必ず幸せになれるよ。一緒に苦難を乗り越えましょう、清良ちゃん」

15、

児島先生は、私を轢いたのが母だと知ると、ためらうことなく警察に通報しようとした。

しかし、私はそれを止めた。母との親子の絆に未練があるわけではなかった。

ただ、この機会を使って自由になりたかったのだ。

児島先生は母に連絡し、監視カメラの映像を使って脅迫した。

母はすぐに病室に現れ、ギプスを巻いた私の右手を満足げに見つめた。

「コンテストに出るなら私が送ってあげるよ?」

その一言は、心を刺すような言葉だった。もし私が本当に右利きだけだったなら、今の私はその言葉を聞
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