共有

第66話

田中一郎はなんとか内心の動揺を抑え、渡辺玲奈の方に視線を向けたとき、彼女の首元に目が行き、白い胸元が目に入った。

渡辺玲奈はテーブルに身を乗り出して田中一郎に近づいていたが、自分の服が少し緩んでいることには気づいていなかった。

見てはいけないものを見てしまった。

田中一郎は自らの意思で視線を外し、軽く息を吐いた。心の中がむずむずして、この感じが新鮮でありながらも魅惑的であった。

いつも自慢していた自制心が、今にも笑い話になりそうだった。

「他に何か言っていなかったか?」田中一郎の声はかすれた低いトーンに変わっていた。

渡辺玲奈は首を振った。「それだけです」

田中一郎は渡辺玲奈の肩を押して、彼女を座らせて、気を紛らわすために話題を変えようとした。

しかし、彼女の瞳はまるで光を宿したように潤んでいて、肌はまるでゆで卵のように白くてきめ細かく、美しく誘っていた。

彼女の薄紅色の唇は…...。

田中一郎の目は熱く燃え上がり、彼女の唇を見つめながら喉が上下に動き、唾を飲み込んでもこの熱さを和らげることはできなかった。

彼は自分が狂ったのではないかと疑わざるを得なかった。

渡辺玲奈に欲望を感じてしまったのか?

だが、考え直してみれば、自分は血気盛んな正常な男であり、渡辺玲奈は自分の妻である以上、欲望を抱くのは当然で当たり前なことではないか?

田中一郎は自身の困惑と緊張感を隠し、低く響く魅惑的な声で言った。「今日、君の部屋に泊まってもいいか?」

この一言には、非常に曖昧な意味が含まれていた。

渡辺玲奈は驚いて彼を見つめ、その熱い視線に少し心が乱れた。田中一郎がいつもと違うように感じられた。

渡辺玲奈は問い返した。「船上には部屋がないの?」

田中一郎の呼吸はさらに深く荒くなった。「あるさ。でも、君と一緒に寝たいんだ」

彼の言いたいことはまだ明白ではないか?

経験豊富な彼女なら、この意味を理解しないはずがなかった。

渡辺玲奈は田中一郎の今日の言葉遣いと視線がいつもと違うように感じ、彼が少し苦しそうで、何か焦っているように見えた。

彼女はそれ以上深く考えず、二人はよく同じベッドで寝ていたのだから。

田中一郎が伊藤千佳をこれほど愛しているのだから、自分に手を出すことはないだろう。

渡辺玲奈は近くにあるダブルベッドを見て、あっさりと答えた。「
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status