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第70話

谷口教授はうなずいた。「研究しましたが、その原理を全く理解できませんでした。この物質は軽霧がいなければ、価値のない無駄なものです」

田中一郎は谷口教授を一瞥し、物を手に立ち上がると、兼家克之に言った。「彼に値段をつけさせろ。この物は僕が買う」

そう言い残して、田中一郎は部屋を出て行った。

谷口教授は慌てて立ち上がり、首を振り手を振りながら言った。「いえ、いえ、お金はいりません」

田中一郎が部屋を出ると、兼家克之は谷口教授の前に立ち、厳しく言った。「この物は1グラムあたり50億円の価値がある。これ以下であれば、好きなだけ値段を言ってください」

谷口教授は驚きで固まってしまった。

50億円以下であれば、いくらでもいいのか?

彼は退職後、家計が困窮して、妻の大病治療にお金が必要で、この物を売りに船に乗ったのだ。

彼は億単位での計算をすることができなかった。それは彼の一生で稼ぐことのない金額だった。

谷口教授はゆっくりと指を一本伸ばした。

それほど多くはないだろうか?

兼家克之はすぐに承諾した。「1億円ですか?ありがとうございます」

谷口教授は慌てて手を振った。「いえ、いえ、そんなに多くはありません」

「1千万ですか?ありがとうございます。混沌国はあなたの寛大な貢献を忘れません」兼家克之はそう言うと、すぐに証明書を取り出して谷口教授に手渡した。「この証明書を持って3日以内に軍戦グループ本部に行けば、小切手が受け取れます」

「僕は…」谷口教授は呆然としていた。

兼家克之は説明を終えると、その場を離れた。

夕方、クルーズ船は混沌国の海域に戻り、埠頭に停泊した。

船に乗っていた人は次々と降りて行った。

渡辺玲奈は義姉の井上美香に従ってクルーズ船から降りると、目の前の光景に驚いた。

威厳ある隊列が埠頭に二列に並び、秩序正しく、壮観で強烈な威圧感を放っていた。

その隊列を通り過ぎる人々は、生還したことへの感謝とともに、敬意と誇りを感じずにはいられなかった。

埠頭を出ると、渡辺玲奈は路上で伊藤千佳と伊藤健太郎が高級車のそばで待っているのを見た。

井上美香は伊藤健太郎に近づき、しばらく話していた。

渡辺玲奈はあの二人とあまり話したくなかったので、携帯を取り出してタクシーを呼ぶ準備をしていた。

その時、後ろからしっかりとした足音が聞こえてきた。
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