第71話

田中一郎はゆっくりと話し始めた。「それでは、おじさんであるあなたが彼女を家まで送っていただけますか。彼女は前回、会社で大きな問題を起こしてしまい、研究棟の教授たちからかなりの不満を買っています。僕では対処しきれません」

伊藤千佳はその言葉を聞くと、憤然と近づいていった。「一郎お兄ちゃん、家に帰りたくないよ！私も演習を見たい！」

田中一郎は断固とした態度で命じた。「おじさんと一緒に家に帰れ。おじいさんとおばあさんを心配させるんじゃない」

そう言って、彼は渡辺玲奈の手を引いて、軍戦グループの重装甲車に向かった。

田中一郎に連れて行かれる渡辺玲奈を見送りながら、車列は堂々と出発した。

伊藤千佳は不満げな表情を浮かべ、唇を噛みしめて、拳を強く握った。彼女の目には冷たい怒りが閃いていた。

義姉は気まずそうに微笑んで言った。「まあ、もういいわ、千佳。私たちはおじさんの車で帰りましょう」

伊藤千佳は聞く耳を持たず、一言一言をはっきりと言い放った。「伊藤健太郎、私を軍戦グループに送って」

伊藤健太郎は冷淡な態度で答えた。「明日も仕事があるし、手術がいくつも待っているんだ。忙しいから、自分でタクシーを使って行け」

そう言い残し、伊藤健太郎は冷たい表情のまま背を向けて去った。

義姉はその場に立ち尽くし、驚いて目を見開いた。

どういうこと？

この二人はとても親しい叔父と姪の関係じゃなかったのか？なぜ急にこんなにも冷たい関係になったのか。千佳が彼の名前を呼ぶなんて？

伊藤健太郎は一人で車を走らせ去っていった。

伊藤千佳はタクシーを拾って、田中一郎の車列を追いかけた。

その場に残されたお義姉は、状況がまったく理解できず、ぼんやりと立ち尽くしていた。

車は国境へ向かう道を走っていた。

渡辺玲奈は緊張しながら座り、視線はずっと窓の外の景色に注がれていた。彼女の心には、一郎がどこで自分を降ろしてくれるのかという考えが浮かんでいた。

できれば地下鉄の駅やバス停の近くがいい。そうすれば田中家に帰りやすいから。

車はすでに名古屋を出ていたが、一郎は止まる気配を見せなかった。

渡辺玲奈は勇気を振り絞り、一郎の方を見た。

彼の横顔はシャープで、整った顔立ちをしており、とても魅力的だった。

彼は堂々と座り、その姿勢は冷たい高貴な雰囲気を漂わせ、近寄りがたい威圧感を感