第44話

渡辺玲奈は無力感で田中一郎を見つめ、その目には迷いが満ちていた。

田中一郎は心がとても揺らいでいたのを感じた。

彼は渡辺玲奈のこんな無力な視線が、自分にこんなにも強烈な影響を与えるとは思ってもみなかった。

彼は歩み寄り、頭を低くして渡辺玲奈の耳元に顔を近づけ、小声で言った。「渡辺玲奈、ここにいるのは家族や友人ばかりだから、みんな名画の真偽や芸術の才能については気にしていない。これはただ祖母を喜ばせるための誕生日会だ。大切なのは孝行の心だ。それ以外は虚名に過ぎない。あまり気にせず、自分の思うままに描けばいい」

田中一郎の言葉を聞いて、渡辺玲奈は心が少し落ち着き、別の次元に昇華されたような気がした。

田中一郎はさらに尋ねた。「模写はできるか？」

渡辺玲奈は自信なさげに答えた。「たぶんできると思います。模写はそんなに難しくないですし」

田中一郎は落ち着いた声で言った。「それなら山口拓海先生の絵を模写してみたらどうだ？どうせこの絵も偽物だし、ちょうど目の前にあるから」

矢はすでに弦につがえられているようなもので、渡辺玲奈は観客たちの視線の中、仕方なく筆を手に取り、墨を均等に浸した。

彼女のもう一方の手は白紙の上を行ったり来たりと軽く撫でた。その動きは非常に優雅で繊細だった。

その時、誰かが声を上げた。「山口拓海先生の真似をするなんて、どうやら彼の絵を模写するつもりらしい」

真剣に見守る者もいれば、期待に胸を膨らませる者もいて、中には彼女が失敗して恥をかくのを待つ者もいた。

あまり興味のない人たちは宴会での社交を続けた。

ピアノの音色は漂うように優雅で、非常に美しく響いていた。

渡辺玲奈は「秋の風景画」を一度だけ真剣に見つめ、ためらうことなく筆を下ろした。

彼女が最初の一筆を描いた瞬間、絵を描く経験のある人々はみな見とれてしまった。

彼女の腕前は並外れたものだった。

筆の勢いは力強く、筆先が運ぶところには一切の躊躇がなかった。爽快で潔く、清々しいものだった。

渡辺玲奈は一度見ただけで二度と顔を上げることがなかった。まるで筋肉の記憶のように、一筆一筆の軽重や速さ、描かれる線の全てが、脳で考えることなく自然と描かれていった。

彼女はどんどん夢中になり、速度もどんどん速くなっていった。

その場にいた全員が目を見張り、徐々に完成する完璧な絵に感