時をかける少女、愛した君との別れ

18歳の頃の私は、こんな告白を「勇気」だの「青春」だのって思い込んでた。でも、今の私からすれば、そんな自分を張り倒してやりたい気分だ。何が「勇気」だよ、「青春」だって？どう見たって浮かれすぎて、完全にイカれてるじゃないか！幸いにもこの時の私はまだ告白していなかった。つまり、全てが取り返しのつく段階にある。どんなことがあろうと、もう一度やり直せる機会がある以上、私は絶対に尚之に近づかないと心に決めた。二度と前世のあの悲惨な人生を繰り返したくない。私は深く息を吸い込み、手にしたマイクを口元に寄せてから、誠実そのものの態度で語りだした。まるで天に誓う勢いで。「尚之くんの言うとおりだと思います。本当に反省しています。今まで自分がしてきたこと、全てにおいて。以前あなたに迷惑をかけて、本当に申し訳なかったです！ご安心ください。もう心を入れ替えました。これからの私は、恋愛なんかには目もくれず、ただ勉強と夢だけに集中します！」尚之：「……」彼はあっけに取られたようで、驚きに満ちた顔をしてこちらを見つめていた。その瞬間、私はすぐさま舞台から逃げ出した。ウサギよりも速く。周囲の人たちは完全にポカンとしていた。「遥が尚之を諦めるって？」「彼女が諦める？尚之のあの冷たい態度でどれだけの女子が退散したと思う？でも遥だけは違った。何度拒絶されてもめげずに果敢に挑んでいたじゃないか。先月なんか、尚之と一緒に帝大を目指すって賭けまでしてたのに」「たぶん、ハッタリがあまりにも大きくて恥をかくのが怖くなったんだろうな」「尚之にとっては嬉しい話だろうね。やっとしつこい奴から解放されるわけだからさ」そんな噂話が飛び交う中、尚之は遠ざかっていく私の背中をじっと見つめていた。涼やかな眉目が一層冷たく引き締まり、不機嫌そのものだ。その顔に喜びの色は欠片もなかった。私は全力疾走で教室に戻り、心臓がまだドキドキと音を立てていた。机の上の小さな鏡に映ったのは、自分の顔だった。25歳になった私は、まだ若さが残っているものの、結婚と家庭生活の中で3年間を無駄に消費したせいか、目には輝きがなく、顔色も長い不眠のせいで授業を受ける学生のものとは思えないほどに白くくすんでいて、濃いクマを隠すのにファンデーションが必須だった。しかし、鏡の中の少女の肌は白くてきめ

少年は壁にもたれかかりながらスマホをいじっていた。彫りの深い整った顔立ちは冷たくて鋭い印象を与え、視線を落としているその瞬間に、長くて濃いまつ毛が見える。自然とクールな雰囲気が漂い、まるで二次元から飛び出してきたほどのイケメンだった。十数年にわたる恋心を簡単に手放せるわけがない。その瞬間、心臓が何かに魅了されたかのように、ウサギより速く鼓動を打っていた。かすかな物音がしたようで、尚之が視線を上げてこちらを見た。その目と目が合った瞬間、彼は口元をわずかに上げ、どこか気分が良さそうに見えた。追いかけるのはやめたけど、だからといってもう完全に接点を断つというわけでもない。私は気まずそうに挨拶をした。「偶然だね、トイレに来たの？」言ってから、自分の愚かさをひどく後悔した。幸いにも尚之は気に留めず、体を起こして私に向かって指を曲げて示した。「こっち来い」私はおそるおそる言った。「菅原くん、何か用ですか？」尚之は冷たい目で私を見つめ、明らかに不機嫌な表情を浮かべる。彼は繰り返した。「来なさい！」しぶしぶ数歩進んだけど、安全な距離だけはしっかり保った。尚之の顔はさらに険しくなり、眉をひそめて私を見ている。その様子から何か言いたそうだったが、結局飲み込んだ。しばらくして、不機嫌そうに手に持っていたリュックを私に投げてきた。とっさに受け取ったけど、あまりの重さに手元が危うくなった。「何これ？」尚之は答えず、突然こちらに体を傾けてきた。すらりとした少年の体が迫ってきて、どこか懐かしい草木の香りがした。その瞬間、私は呼吸が止まり、頭が真っ白になる。「遥、死に物狂いで勉強しろ」尚之は私の耳元で、歯ぎしりするような低い声で言った。私は意味がわからないまま、彼はすでに立ち去っていた。個室に戻ると、藍が近づいてきた。「何それ？誰かからの誕生日プレゼント？」私は言葉に詰まった。藍はリュックを開け、中を見て大笑いした。「何これ！こんなに問題集詰め込んで送ったなんて！この人、絶対君に帝大に受かってほしいって思ってるね！」私は乾いた笑いしか出なかった。七年前に戻っても尚之の心が理解できないけど、彼が私に帝大に受かって付きまとうのを期待していたわけではないだろうことだけは確かだ。週末の2日間はあっという間に過ぎ

なんで尚之だけじゃなくて、すでに引退した菅原家の創始者、尚之の祖父である菅原盛康（すがわらもりやす）までいるの？今日のこの宴会は星野家が主催者。でも、星野家がこんなに没落してしまった今、来るのは見かけだけ豪華な名家ばかり。なのに、なぜ今日、ここに来たのが、神浜市(かみはまし)を一歩歩くだけで震え上がらせるような存在である盛康なのか？私は眉をひそめたままその場で立ち尽くしながら、彼らを見ていた。菅原家の祖父と孫、盛康と尚之の視線は、揃って冷淡で侮蔑的だ。その表情──それは過去の私にとって、最も馴染み深いものでした。背後から父が私の名前を呼んでいる。でも私は気づくふりすらしない。父の顔が曇ると、隣にいた美和子がすぐさま私の腕をつかみ、父の前に連れて行った。前世の人生では盛康に会ったのは三度だけだった。どの時も私への仕打ちは冷酷だった。その結果を思い返すと、会うたびに何とか私を困らせ始め、最後には辱めて終わる日々だった。瑠奈──彼女は盛康の戦友であった祖父の孫娘であり、二人は幼馴染という関係に基づいて、子供どうしの婚約を既に決めていた。しかしながら、私はその関係の間に割り込んでしまい、半ば間接的に瑠奈を外国へ追いやってしまったのだ。そのせいで盛康は私を徹底的に嫌っている。たとえ前世、盛康が中風で体が動かなくなった際に、私は彼の世話をし、手厚く介護しようとしたにもかかわらず、彼から一片すらも感謝の言葉を貰いはしなかった。今世こそ、私は尚之を選ぶことはない。さらに菅原家の誰かに媚びるような真似も絶対にしないと、硬く決意した。「菅原会長、こちらが私の娘、遥です」父は菅原家の面々を前に媚びへつらいながら申し訳なさそうな嘘をつき、「先月の十五日、遥が菅原くんの車に乗ったんです。その夜は丸一晩戻ってこなくて、翌朝帰ってきた時には菅原くんの服を着ていました」そんな父の発言に、私は目を大きく見開いた。信じられない。お父さん、何のつもりなの？父が盛康に私が尚之と外泊したなんて告げている……？冗談じゃない！なんて無茶苦茶なの。私は単に父が、盛康と私が同級生だった縁を利用して菅原家に取り入ろうとしているだけだと思っていたけど、まさかこんな風に私の潔白を貶めてまで自分の利益を追求するなんて思いもしなかった。本当にどうしてこんな「父親」が存在する

尚之が私を探してる？しかも藍の家まで来たなんて？ちょっと信じられない。彼は私のことをそんなに嫌っているのに、なんで私を探す必要がある？だって、昨夜一文なしで一晩外で過ごしたのに、父親ですら私を探そうともしなかった。ここに来たのはきっと瑠奈に謝罪させるためだろう。昨日の夜、瑠奈に謝れと言った尚之の顔を思い出すと、思わず少し笑ってしまった。そしてまたペンを持ち、問題集に向き直った。「彼が来ているからと言って、私が会わなきゃいけないわけじゃないでしょ。待ちたいなら、勝手に待てばいい」休み前の模擬試験の点数、予想よりも2点低かった。たった2点で、大学入試ではどれだけの差をつけられるか分かる？こんな無関係な人に、私の貴重な時間を使う必要がどこにあるの？集中して勉強を進めていたけど、藍がそわそわし始めた。ちらちらと私を見たり、水を飲みに立ったり、トイレに行ったりと、終始落ち着かない様子だった。机の上に放ってあるスマホも頻繁に振動している。それを無音にしてはまた元に戻し、とうとう我慢できなくなったのか、私のペンと問題集を取り上げてこう言った。「ねぇ、もう勉強なんかやめて。ちょっと私に教えて、どう考えてるの？」何時間も勉強を続けたせいで、目が少し乾いてきた。藍がペンと問題集を取ってしまったのだから、ついでに目を少し休めることにした。「何をどう考えてるって？」目を閉じ、一回深呼吸してから開いたけど、まだ少し乾燥感が残る。「菅原くんのことだよ」藍は私の横に移動してきて、私の顔を両手で掴んで正面を向けた。「本当にもう諦めるつもり？だってさ、前はあんなに彼じゃなきゃダメって言ってたじゃん」あんなに彼じゃなきゃダメだって――その言葉を心の中で繰り返す。すると、突然胸の奥から辛い感情がこみあげてきた。そうだよ、確かに尚之じゃなきゃダメだって思ってた。でもね、藍。何度も人に傷つけられると、どんなに愛していても手放さなきゃいけない時が来るんだよ。私も一度、無謀でただ疲れるだけの追いかけっこを経験したことがあるの。それがどれだけ辛いものだったか、言葉じゃ言い表せないくらい。もう二度と、あの全身の隅々まで無力感が染み渡るような思いはしたくないんだ。「なんだろう、急に吹っ切れたみたいな感じかな」藍の瞳を見つめながら答えた。「

「ついてないわ」藍は瑠奈を見た瞬間、目を細め、露骨に嫌悪感を示した。振り返ると私の手を掴みながら、「遥、ここはハエが多すぎる。別の店に行こう」と強引に外へ連れ出そうとした。私は瑠奈に一瞥をくれた。彼女のことをよく知っている私には、きっと面倒なことを仕掛けてくると予感できた。今日の私はあまり機嫌が良くないし、彼女たちと口論して時間を無駄にしたくもない。藍にうなずき、「うん、行こう」と答えた。藍と一緒に店を出ようとしたその時、瑠奈の取り巻きの一人がちらりと瑠奈を見てから、陰湿な口調でこう言い放った。「何を偉そうにしてんの。もうすぐ破産するとか噂になってるくせに」瑠奈が取り巻きを装うように「やめて」とたしなめる姿勢を見せた。「誰のこと言ってんの？」藍は突然振り返り、その取り巻きに向けて一直線に歩み寄った。瑠奈を押しのける勢いで、「あっ」という悲鳴とともに彼女をラックにぶつけた。瑠奈のもう一人の取り巻きが急いで彼女を支えると、「瑠奈、大丈夫？お前、よくも手を出したな！」と叫んだ。「手を出したら何？デタラメな口ばかり叩いてやがって！この場でお前ら全員ぶん殴ってやる！」藍は行動が早すぎて、私が反応する暇もなく、もうその女の目の前まで行き、手を振り上げた。相手は人数で勝っているし、私たち二人は普段甘やかされて育ったため、水バケツすら持ち上げるのが精一杯。喧嘩ならどう考えても勝てるわけがない。しかも、先に手を出したのはこちらだ。大学入試前という大事な時期に、藍にこれ以上私のせいで影響を受けさせたくない。私は急いで藍の振り下ろそうとする手を掴み、首を横に振った。しかし、この行動が相手には私が怖気づいたように見えたようだ。取り巻きはまた「クスクス」と笑いながら藍に向かって小指を立てた。「おい見ろよ、お前の主人の方が状況を分かってる。お前が何吠えてるんだよ？」次の瞬間、大きな音を伴って取り巻きの顔にビンタが飛んだ。過去にもう一度人生をやり直す機会を得た私は、全ての争いに挑む必要がないことを学んだし、大事でもない相手と時間を無駄にする必要もないと理解した。このため、最近瑠奈が仕掛けてきた数々の嫌がらせを、私は全て無視してきた。しかし、私の寛容さが彼らにとって、遙が簡単にいじめられるほどの弱虫と映ったのだろう。さらに、私