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第2話

あれから三日が経ったが、上様はまだ姿を見せない。

烏が日に日に増え、新之助の遺骸に群がり、私が目を離すと肉片をくわえていってしまう。

夜ともなれば、鼠が暗闇の中で緑の光る目を光らせ、「チチチッ」と鳴きながら、どこかで待ち構えている。

城のあちこちでは奥女中が顔を輝かせて噂をしていた。どうやら御台所様に懐妊の兆しが見られたそうで、上様は大変お喜びになり、奥には褒美が配られたのだという。

私は急に疲れが押し寄せ、瓦礫の木片を一箇所に集めて火を点けた。

新之助は父親のことを私に言ったことはない。私が気に病むのを恐れて、口に出せなかったのだろう。

だが、上様が西の城門から狩りに出るときには、新之助は槐の木のいちばん高い枝までよじ登り、遠くから見送っていたものだった。

最後に、あの子に父親の姿を見せてやりたかったが、もはや叶わぬ望みだ。

私は新之助を薪の中央にそっと横たえ、香で炙った新しい衣を着せてやった。

お前には、この母がどれほど苦労をかけたことか。

火が次第に高くなり、小さな身体を飲み込んでいく。

薪には水がかけられていたため、煙がひどく立ち上り、城中がむせるような煙に包まれていった。

程なくして、私は何人かの役人に取り押さえられ、小部屋に連れて行かれた。

部屋には上様である鷹司光信が椅子に座って待っており、手の中で私が渡したあの小さな珠を転がしていた。

新之助が生まれたとき、光信が私を訪ねてきて以来、五年ぶりの対面であった。

あの時は政に追われ疲れていると思っていたが、見ると頬は丸く、目は澄んで、さながら悩みとは無縁の若君のような姿だった。

私が近づくと、光信は思わず鼻を覆った。

臭いが私から出ていると気付いたとき、驚いたように手拭いを下ろした。

かつて光信は、私の身にまとっていた香を気に入り、いつも私の手拭いを懐に入れていた。

そのことを知った御台所、氷川綾が私を最も汚れた仕事に追いやったのだ。

光信は珠を懐にしまい、そっと私の手を取ったが、呼吸が浅くなっているのが分かる。

「新之助の死、わしも心が痛む。もっと早く会いに来るべきだった」

光信の身に纏うのは、氷川綾が最も好んでいる伽羅の香りだった。

その胸に抱かれ泣き叫びたい気持ちはあったが、何かが詰まっているかのようで声が出ない。

頭の中には、新之助の無惨な姿しか浮かばなかった。

私は咳払いをし、掠れた声で頼んだ。

「上様、どうか私に、せめて最低の役でもお与えください。小使で構いません」

私は氷川家の里で育った庶子であったために、十歳で奥に入ったときも侍女となり、冷や飯食いのような身分に追いやられた。

その後七年、光信と心を通わせたが、何の役も与えられなかった。

かつては光信の身分が低く、家を開いて妻を迎えることもできなかったが、やがて光信が跡を継ぎ、氷川家を後ろ盾にするため、綾を妻に迎えたのだ。

幼い頃、私が調香した香が高僧に称賛され、氷川綾の前で気を引いてしまった。

それを根に持たれ、私と母は氷川家を追われることとなった。

氷川綾は決して私が侍女から主になることを許すはずもなく、彼女が城に上がるやいなや、光信は私に身を潜めるよう命じたのだ。

御台所に仕える女中頭の言葉がよぎる。私に役がなければ、新之助は御台所の血筋として祭られることもできず、その魂は彷徨い続けることになると。

奥で褒美が下るというのだから、せめて小使の位をくださるだけでも叶うはずだ。

だが、光信は迷いを見せ、今は戦支度に氷川家の力が必要であると告げた。

「今この状況で、御台所を怒らせるわけにはいかない。お前も姉上の気性はよく知っているだろう」

光信の言葉を聞き、私は言葉を失った。御台所の性分はよく知っているからこそ、光信がなぜ今もあの方を溺愛し続けるのかが理解できない。

綾は気位が高く、我が強い上に執念深い。しかも、容姿も平凡で、魅了されるほどの美しさがあるわけでもない。

私が黙ったままでいると、光信は小さな珠を再び取り出し、私の手のひらにそっと置いた。

「凛、天下が治まれば、必ずやあのときの約束を果たす」

綾が奥に入るとき、光信は私に約束していた光輝く珠を彼女に与え、私にはこの小さな珠だけが残された。

これは一時的なものだ、やがて地位が安定したら正妻として迎えると、そう言われていた。

私は光信の立場も理解している。

若殿と安王は争いの末に廃されはしたが、いまだ多くの味方を持っている。

冷遇されていた光信が急に大位についたのだから、重臣たちの支えがどうしても必要なのだろう。

私は別に、後ろ盾を求めたわけではない。

かつて冷遇されながらも、命を賭けて光信を支えていたとき、彼がこの位に就くとは夢にも思わなかった頃のことだ。

ただ、彼の肩にもたれ、その長い睫毛が月明かりに映えるのを眺めるだけで満足だった。

自分の身分が低く、彼に力を貸すことができない私は、せめて迷惑をかけないようにと心がけてきた。

それでも初めて口にした頼みは、奥で最低限の役をいただくことだけだった。

だが光信はそれを断り、理由を問うこともなかった。

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