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第8話

情勢はますます混乱し、落桑の外にはすでに軍隊が駐屯していた。

一月ほどかけて足の調子もだいぶ良くなったので、母と共に山へ入って身を隠すことにした。

山中の家は、広々とした谷間に建てられていて、一面に広がる花畑が風に揺れて香っている。

私はここが新之助が喜びそうな場所だと思った。

そこで見晴らしの良い場所に小さな墓を立ててやることにした。

この地の花々は私に新たな調香のひらめきを与え、次々と異なる香りの香袋を十種ほど作り出すことができた。香袋が完成するたびに、新之助の墓前にそっと置いていった。

「これは七里香と山棕櫚の香り、こっちは合歓と夜香木を混ぜた安神香だよ」

半月ごとに、鷹四郎が私と母の作った香袋をまとめて落桑に売りに出かけていた。

そして今回、彼は重大な知らせを携えて帰ってきた。

安王が軍を率いて城へ向けて進軍し、落桑まで迫っているというのだ。

光信の軍勢もすでにここで待機しており、つまり、落桑で光信と安王の決戦が行われることになる。

「安王は城々を攻め落としながら進んでいて、その勢いはすさまじい。光信にとってはかなり厳しい戦になるだろうな」

鷹四郎は、「それも報いだ」と私を慰めるように言った。

私は、竹で編んだ籠に干した花を並べながら、光信の軍を指揮しているのが誰か尋ねた。

「他に誰だってんだ?御台所の父親、氷川家の当主、氷川剛だろ。

光信も、御台所にすっかり振り回されているみたいだな。天下もすべて彼女にくれてやるつもりなんだろう」

話の途中で、鷹四郎は私が気にするだろうと思い直し、話題を変えて言った。

「そうそう、香袋が落桑でものすごく人気でね。仲介者を通じて来月分を予約してくる人もいるほどさ。

ほら、これはその人がくれた予約金だ」

鷹四郎の掌中で光るのは、明珠と呼ばれる真珠で、透明でみずみずしい光沢があり、かつて鳳凰冠に飾られていた台座の跡が見て取れる。

光信が来た。

私は鷹四郎に「もう下山しないで」と頼んだ。どうせ蓄えた食糧が数ヶ月はもつ。

鷹四郎も母も、何か感じ取ったようだが、それ以上は何も尋ねなかった。

山の尾根に登れば、落桑の町が遠くまで見渡せる。

今日は十分にニッケイの葉を摘んだので、私は背負い籠を下ろし、大きな岩に腰掛けて休んだ。

落桑の町の東側には赤地に「氷」の文字が染め抜かれた氷川家の軍旗
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