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第6話

かつて氷川家にいた頃、氷川の家主が安王の叔父と親しく交際しているのを見かけたことがあった。

もし綾が安王を助けて逃がしたのだとすれば、何ら不思議ではない。

けれど、私がこのことを疑うように、どうして光信は気づかず、彼女を命の恩人だと信じ続けているのだろうか?

少し考え込んでいるうちに、茶屋の客はずいぶん少なくなっていた。

茶代を置いて欄干をつかみながら下へと降りる。

だが、今さらそんなことに気を揉む必要もない。この香木の産地特有の匂いを、少し買い足すことの方が大事だった。

まだ脚の傷が完治していないため、長旅には耐えられず、「落桑」という小さな町で足を止め、休養することにした。

町へ出た車夫が、私のために珍しい香膏を買ってきてくれた。

「旦那、みんながこれを買っていたので、香料商いの旦那にもと思って持ってきました」

小さな陶器の蓋を開けると、上品で清らかな香りが漂ってくる。

その香りは俗っぽさもなく、かといって薄すぎず、まるで雪山の頂で咲く花が放つかすかな香りのようだった。

気に入ってしまい、私もその練り香を扱っている店を訪ねてみることにした。

落桑は三つの州の境にあり、人の行き来が多いため、情報の集まりやすい場所でもあった。

穀物商人が米を買い占め始めており、安王が領地で動きを見せているため、戦が間近だという噂が流れていた。

また、献上するためといって、高価な龍涎香を買い集めている者もいるようだった。

もっと驚いたのは、上様が自ら城外の乱葬の地へ向かい、天然痘で亡くなった者の身元確認をしているという話だった。

「遺体はすべて確認し、記録しているらしい」

「上様は本当にお情け深いお方だ。普通の城主なら、下人たちの死後など気にも留めないだろう」

「でもな、上様はある侍女を探しているらしく、城中をすっかりひっくり返して探しているそうだ」

「そこまでして探すとは、よほど想っているのだろう」

私は心の中で冷笑を浮かべた。

そのとき、山鳥を抱えた猟師が口を開いた。

「それはどうかな。上様が本当にその侍女を想っていたのなら、きちんと位を授け、待遇も良くしたはずだ。永巷で粗仕事などさせることもなかっただろう。

男というものは本当に惚れた相手に苦労させたくないものだ。たとえ自らが火の中へ飛び込んでも守りたいと思うものだからな」

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