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第3話

毎晩、新之助が夢に現れる。ぼんやりと姿は見えるが、その顔立ちは曖昧だ。彼は私の後をずっとついてきて、ささやくのだ。

「母上、山茶花の香りってどんなだろう。ツツジはいつ咲くの?

長屋の外の世界には厠なんてないのかな。他の子の父上は毎日そばにいてくれるのかな」

夢から覚めると、窓の外には再び山積みになった厠が待っている。

「御台所様のおなりだ」

細く引き絞った声が鳴り響き、遠くから御台所様、綾の輿がゆっくりと近づいてくる。

彼女はわざと薪の灰が積もった場所に輿を止め、まるで愉快な光景でも見ているかのように、ケラケラと笑い声を上げた。

年配の女中が、低く抑えた声で忠告する。

「お喜びもほどほどに。お子様に障りがあっては」

「何を言っているの?相人は、このお腹の子は天命を受けると予言してくれたわ。まさにその通りじゃない」

輿が静かに下ろされ、綾はゆっくりと私の方に歩み寄ってきた。

「なぜ、こう言ったか分かる?まだ生まれてもいないのに、この長屋の中の妖魔はすっかり消え去ったようだわ」

彼女は腹を撫で、腕の環がカランと音を立てる。

私は顔を上げず、黙って次の厠を洗い続けた。

「無礼者、御台所様がお話をされているのよ」

年配の女中は口と鼻を覆いながら、私の頬をひと叩きした。

痛みはまるで感じなかった。まるでこの頭が自分のものではないかのようだった。

再び、氷川綾の声が頭上から響く。

「お前、かつて上様に仕えたからといって、私からあの方を奪えるとでも思っているの?

夢にも思わないことね。私が眉をしかめるだけで、あの方は私を気遣ってくださるのよ。だからお前に名分が与えられることは絶対にない。

凛、お前もお前の母も、下賤な身分だ。この長屋で一生、厠掃除をしていればいい」

彼女が手拭いを振ると、かすかに嗅ぎ慣れた香りが漂ってきた。

それは献上された龍涎香ではなく、私が数種の薬草を加えて調合した特製の龍涎香だった。

光信が大位に就いた後も、頭痛の発作は止まらず、どれほどの名医の薬も効かなかった。

私は万が一に備え、特製の龍涎香を五箱分も用意し、発作時にすぐ使えるようにしていたのだ。

光信の晴れやかな姿を見るたびに、頭痛は治ったものだと思っていたのに。

綾が手を叩き、大げさに言葉を続けた。

「そうだ、お前の子も今では亡骸もなく、奈落にすら流れつかない哀れな幽霊だ。お前たち一家は下賤な運命に生まれたのだよ」

彼女が合図をすると、付き従う老臣が手拭いで手を包み、上の方にあった桶を押しやった。

まだ洗っていない桶が、私に覆いかぶさり、私は倒れ込んでしまった。

綾の高笑いは次第に遠ざかり、私は暗闇に沈んでいくような気がした。

そのまま抵抗する気力も失いかけたその時、小さな手が私の顔に触れて涙が頬を伝った。

「母上、早く目を覚まして。

母上が約束したでしょう?この長屋を出て、梅の香りを嗅ぎ、川辺の野花を摘みに行こうって。

『香譜』は覚えたよ。母上が好きな香をきっと作れる」

それは新之助、私の新之助の声だった。

生前、彼は一度も花の香りを嗅いだことがない。私は彼を連れ出して、城の外を見せてやらなければならない。

残りの力を振り絞り、私はようやくその桶を蹴り飛ばして立ち上がった。

そして、手元に残っていたあの珠を使い、長屋にいる洗い場の侍女を買収し、御前に仕える白川弥右衛門に手紙を届けてもらった。

弥右衛門は光信が冷遇されていた時から支えてきた者で、これまでにも密かに私を助けてくれていた。

侍女が城を出るには、弥右衛門の書状ひとつがあれば事足りる。

私が消えることは、綾にとって願ったりかなったりであり、奥で気にかける者はいない。

私は新之助の骨灰を丁寧に包み、青染めの布でしっかりと巻き直した。

この布は、母が私に残してくれた唯一の品で、かすかにビャクシの香りが染み込んでいた。間もなく母は氷川家の奥方に売り払われたのだ。

高僧が取りなしてくれなければ、私もそのまま人買いに渡されるところだった。

私は光信に母を捜してほしいと頼んだこともあるが、彼はいつも氷川家が妨害していると理由をつけて、話は立ち消えとなった。

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