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第85話

彼は微かに驚いて「なぜ知っている?」と言った。

結婚生活が終わりに近づいて、何も言い訳する必要はない。私は率直に言った。「あの

日、あなたとお爺さんがオフィスで話しているのを、私はドアの前で聞いていたの。その時、あなたは私に対して何の感情も持っていないと認めた事も聞いたわ。実は、この結婚は最初から最後まで間違っていたのでしょうね」

「違うよ」

彼は迫られたように否定し、眉をひそめて考えを巡らせ「俺が認めたのはその質問に対してじゃないよ。君は誤解している……」と説明した。

今の私に言い争いをする必要なんてなかった。彼をじっと見つめながら、淡々と笑って言った。「それなら、私を愛したことはあるの?」

「……」

江川宏は一瞬驚いた。これは彼にとって酷な質問だったかもしれない。「南……」

「説明する必要はないわ、私が可哀想に見えるでしょ」

私は何事もない様子で笑って言った。「加藤伸二に私が渡した離婚協議書を持ってこさせて。将来、あなたは他の人と結婚するでしょう、ここに書いてある株の財産分与は適切ではないわ……」

彼は突然力強い声を出し、真面目な顔つきではっきりと言い切った。「俺は結婚なんかしない」

私のまつげがぴくりと震えた。「それは……あなたの問題でしょ。とにかく、この株は私が持つには妥当じゃないわ」

私は自分がそんなに悟った人間じゃないということはよくわかっていた。

長年愛した人なのだから、離婚したら、再会するのは不適切だろう。

時間に任せるのは、過去の傷跡を消す事であって、古傷をえぐる事ではないはずだ。

それに、江川アナがこの株のことを知りでもしたら、私は安心して日々を過ごせないだろう。

関係を断つと決めたのなら、その後には何も起こらないようにキッパリと切ってしまわないと。

「俺に関わることをそんなに恐れているのか?」

江川宏は顔を沈め、腕時計をちらりと見て、薄い唇をギュッと引き締めた。「俺には残り5分しかない。署名したくないなら、次回にしないか」

「今すぐ署名します」

私は歯をギリッと噛み、素早く自分の名前を空いている箇所に署名した。

手こずったとしても、必ず解決法は見つかるものだ。

最優先させることはこの手続きを今すぐ終わらせることだ。

窓口に戻ると、職員は他の書類をチェックし終え、離婚協議書を再び見返した。

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コメント (1)
goodnovel comment avatar
yas
いや、この男は取り消す機会をねらってるぞ! 南ちゃん!がんばって!!
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