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第86話

「後悔するのがそんなに心配?」

彼ははっきりしない声で「でも、俺は君が赤の他人扱いしてきそうで、それがもっと心配だな」と言った。

周りはとても寒かったが、彼の抱擁は昔と変わらない温度でとても暖かく感じた。

彼の言葉に私は驚き動揺した。

ハッとした時には、彼はもう車のドアを開けてくれていた。私が乗った後、振り返らずに去っていった。

雨のカーテン越しに、彼のスラリと高いその背中がびっしょり濡れているのが見えた。

胸の中は何万匹もの蟻に食い荒らされてしまったかのように、空っぽになっていった。

結婚というのはこんなにあっさりと終了してしまうものなのか。

30分ほどの時間を空けておくだけでいい。役所に行って書類を提出し、署名するだけだ。

1ヶ月後、再び時間を作って役所に行く。二人の考えが変わらなければ、婚姻証明書と形は同じの離婚証明書をもらえるのだ。

今までの全てがこうしてバッサリと断ち切られてしまうのだった。

かつて同じベッドで寝て、共に生きてきたことがまるで夢のようだ。

もちろん、そうなる条件は江川宏が約束を破らなければ、という話なのだが。

河崎来依の家に戻った時、私がドアを開けるよりも早く彼女がドアを開けた。

「帰ってきたの?」

「うん」

私は軽く笑って、何事もなかったかのような態度をとった。

彼女は私が家に入り、スリッパに履き替えるのを静かに見つめ、恐る恐る口を開いて言った。「江川宏からメッセージが来たの。あなたたちは……本当に離婚するんだよね?」

「そうだね、もう申請したし、1ヶ月後に離婚の証明書を受け取る予定だよ」

私はコートを脱ぎ、髪を頭の後ろに適当にまとめて、一つに結んだ。「彼からメッセージって、何を言ってきたの?」

彼女はためらいながら口を開いた。「私にこの一ヶ月間あなたのことを任せたよって」

「まさか私が飛び降りるとでも心配しているの?」

私は自虐的に言った。「彼にあまり考えすぎるなって伝えて。私一人いなくなったところで、地球は変わらずに回り続けるわよ」

「違うよ」

河崎来依は否定し、眉間に皺を寄せて考えながら言った。「私はこの言葉に何か別の意味があるような気がする。彼は本気で離婚するつもりかしら? ただ今だけ一時的に対応してるだけなんじゃ。離婚の冷却期間中に一方が申請を取り下げれば離婚できなくなるから」

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