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第122話

歩美は期待を込めて由佳を見つめていた。

もともと歩美の存在だけで自分を不快にさせるには十分だった。

そして山口清次の言葉を聞いて、由佳の気分はさらに悪くなった。

山口清次はかつて歩美はいつも善良で、由佳に償いたいと言っていた。

本当に笑わせる。

善良という言葉は歩美と全くふさわしくない。

由佳が黙っていると、歩美は続けた。「由佳さん、まだ私を恨んでいることはわかっているわ。もし嫌なら返してくれればいい。捨てるわ。」

そう言って、歩美は由佳の手から紙袋を取り戻そうとした。

「分かった、受け取るわ。リハーサルに行きなさい。」由佳は淡々と言った。

周りには山口清次だけでなく、他のスタッフもいて、監視カメラもあったので、由佳が拒絶すれば問題が大きくなる可能性があった。

もしかしたら翌日には監視カメラの映像がネットにアップされ、自分が歩美をいじめていると非難されるかもしれない。

歩美は嬉しそうに笑って、「ありがとう、由佳さん。」

「清次さん、私はリハーサルに行くわ。由佳さんがケーキを食べるのを見ていてね。」

そう言って、歩美はアシスタントの後について行った。

由佳はケーキを無造作にテーブルの上に置き、立ち去ろうとしたところを山口清次に呼び止められた。「君はずっと忙しかったんだから、少し座って休んで、ケーキを食べて。」

そう言って、山口清次はケーキの箱を紙袋から取り出し、丁寧に開けてフォークを刺し、由佳の前に差し出した。

彼は本当に歩美の言うことを聞くのだ。

歩美が何か言うと、すぐにそれに従うのだ。

「君はこのケーキが好きじゃなかったのか?」山口清次は動かない由佳を見て、「それとも歩美に抵抗感があるのか?」

由佳は深く息を吸い、フォークを取り上げ、ケーキのクリームを一口食べた。

なぜか、同じ味なのに、前はあんなに嬉しかったのに、今は胃がむかつくだけだった。

由佳は口を押さえ、ゴミ箱に向かって駆け寄り、腰をかがめてえずいた。

山口清次はすぐに追いかけてきて、彼女の背中を軽く叩きながら、「大丈夫か?また胃が痛むのか?」と眉をひそめた。

由佳は口元をティッシュで拭き、「もうこのケーキは買わないで。嫌いになった。」

「どうして急に嫌いになったんだ?」

彼女がこのケーキを好きだったことを山口清次は覚えていた。

歩美も好きだった。

あの
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