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第36話 純粋に口説いてるだけですよ

目が合った瞬間、奈央は堯之の目に一瞬だけ憎しみの色がよぎるのを見た。

自分はこの男を怒らせるようなことはしていないし、ましてや憎しみを買うようなことなど全くしていない。それなのに、この憎しみは一体どこから来るものなの?

宇野さん?

この瞬間、奈央は何かに気づいたかのように、急に全てが繋がった。

「私、宇野さんにも興味ないので」

彼女はそう答え、続けて言った。

「戦場ヶ原さんと彼の間にどんな因縁があるのか知らないけど、私を巻き込まないでください」

「Dr.霧島、考えすぎです。俺はただ純粋に口説いてるだけですよ」

瞬き一つで、堯之は元の穏やかな表情に戻り、にこやかな顔を見せた。それの笑顔は、彼が実の父を殺した犯人だなんて到底信じられないほどのものだった。

「お断りします」

彼女はきっぱりと言った。

堯之は腹を立てることもなく、笑顔のまま立ち上がった。

「大丈夫、まだ時間があります。いつか必ず君の心を動かせて見せますよ」

そう言い残し、奈央が再び口を開く前に、彼はすでにオフィスを後にした。

「......」

毎日毎日、厄介なことばかり。

午後、奈央はもう一件の手術を控えていた。準備を進めている最中に、皐月が慌ただしく彼女の元へやってきた。

「Dr.霧島、急診に患者が来たんですけど、どうしてもあなたに手術をしてほしいって」

彼女は不満げな顔で言った。

「どういう状況?重症?」

奈央は尋ね、すぐに急診の方へ向かおうとした。

皐月は彼女を引き止め、

「行かない方がいいですよ。あの患者の家族は本当に厄介ですから」

「軽い脳震盪で、手術する必要はありません。急診の医者がもう説明したんですが、彼らはそれを信じず、どうしてもDr.霧島を呼んでほしいと」

奈央は眉をひそめ、少し考え込んでから言った。

「とりあえず行ってみよう」

「分かりました」

彼女の意見を聞いて、皐月はもう何も言わず、奈央と共に急診科へ向かった。

ほどなくして二人が急診に到着すると、すぐに家族に囲まれた。

「あんたがDr.霧島?あの噂の脳外科の名医?」

患者の家族は彼女を疑わしげに見つめた。

彼らは泉ヶ原市立病院にとても優秀な脳外科医がいると聞いたから、救急車にここまで運ばせた。

だが、目の前にいるのはどう見ても若い女性で、本当にそんなに優秀なのかと疑問を
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