第30話 彼は自分の父親を殺した

奈央は堯之との会話を楽しんでいた。この男は少なくとも嫌な感じを与えないし、かなり面白い人だと感じた。

宴会が終わると、奈央は翔と一緒にその場を離れた。出発前、堯之は名残惜しそうに彼女に言った。

「Dr.霧島、また会いましょう」

「ええ」

奈央は彼に手を振り、車に乗ってその場を去った。

車が闇の中に消えるまで、堯之は笑顔を保っていたが、その後は顔の筋肉をほぐし、麻痺した笑顔を元に戻した。

彼が振り返ると、椿がいつの間にか彼の後ろに立っているのが見えた。

「椿、大夜中に俺を怖がらせたいのか？」

堯之は不満そうに言い、数歩後退した。どうせ、この男には敵わないのだから。

椿は彼をじっと見つめ、暗い顔で言った。

「僕たちの問題に無関係の人を巻き込むな」

堯之は笑いながら、耳を揉んで驚いた様子で言った。

「なんだって？お前が女に気を使うとは思わなかったよ」

「戦場ヶ原、これまでの行いには目をつぶってきたが、いつまでもそうはさせないから」

椿は低い声で言った。これまで堯之は彼にいろいろと迷惑をかけてきたが、椿は彼と争うつもりはなかった。なぜなら、当時の件に関しては彼も被害者の一人だからだ。

だが、彼にも限度がある。

椿がこう言うと、堯之の顔色も悪くなった。

「つまり、今までの俺の勝利は、お前が俺と本気で戦わなかったからだと言いたいのか？」

「それ以外何がある？」

椿は堯之を見つめ、まるで幼稚な子供を見ているかのようだった。

堯之は怒りに震え、椿に向かって指を突きつけて言った。

「椿、俺の前で大人ぶるな！本当に強いなら、俺を殺してみろよ！

「でなければ、いつか必ずお前を殺し、宇野家全体を叩き潰してやる！」

彼が言い終わると、椿はただ冷静に、「そうか。そんな力があるとは思えないが」とだけ言った。

「覚えてろよ！」

堯之は怒り狂い、その場を立ち去ろうとしたが、数歩進んだところで振り返り、椿に言った。

「そうだ、あのDr.霧島に好意を持ってるんだろ？」

「ない」

椿は即座に答えた。

「本当に？」

堯之は笑みを浮かべ、冷ややかに言った。

「そうか、それは良かった。俺は口説いて、彼女にする予定だ。どう思う？」

その言葉に、周囲の温度が一気に下がったように感じたが、堯之は逆にさらに楽しげに笑った。

「勝手にしろ」と椿はしばらくし