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第9話

「智彦!智彦!起きて、智彦!」

ぼんやりとした中で、聞き覚えのある女の子の声が耳に入ってきた。周囲は騒がしく、鼻には消毒液の強い匂いが漂っている。

「智彦!聞こえる?!」

「先生!先生!彼が目を覚ましそうです!」

ゆっくりと目を開けると、眩しい白い光が目に入ってきた。さっき夢の中で見たあの強烈な光は、きっとこの蛍光灯のことだったんだろう。

「青葉.....」―記憶が一気に溢れ出してきた。

「友樹......友樹はどこだ!」

俺は必死に起き上がろうとした。

だが、医者が慌てて俺を押さえつけた。「君は重傷を負っているんだ、動いちゃダメだ!」

体に激痛が走り、俺はベッドに押し戻された。

青葉が泣きそうな声で俺の手を握り、「ごめんね......」と呟いた。

ぼんやりとした意識の中で、散らばったピースを一つ一つ繋ぎ合わせるように記憶を辿った。

青葉は俺と別れてなんかいなかった。ただ、3ヶ月前、彼女の会社に新しい同僚が入ってきて、彼と少し親しくなっただけだった。

先週、青葉がその同僚とランチをしたとき、俺に事後報告してきた。それで俺は少し嫉妬して、数日間不機嫌になっていた。

青葉は俺を宥めようと、友樹を誘って、日曜日に一緒にキャンプに行く計画を立てたんだ。彼女の会社に新しく入った女の子を、友樹に紹介するつもりだった。

俺も、友樹との仲を修復する良い機会だと思っていた。俺にとって、友樹は本当に大切な友達だったから。

記憶は今朝へと戻る。

日の出を見るために、俺と友樹は早朝4時過ぎに出発して、青葉と彼女の同僚を迎えに行く予定だった。

夜明け前の薄霧に包まれた空はどんよりと灰色で、俺たちは疲れを感じながらも、友樹がラジオでかけていた怪談チャンネルのおかげでなんとか目を覚ましていた。

『血塗られた愛』と『祝い』の曲は、確かそのラジオから流れてきたものだった。

青葉の家の近くには、交通事故がよく起こる危険な交差点があった。いつもなら、そこを通るときは注意深く運転していた。

でも、今日は早朝で、車もほとんどいなかった。俺は眠気でぼんやりしていて、あまり気にしていなかったんだ。

突然、耳をつんざくようなトラックのクラクションが鳴り響いた。だが、もう避ける余裕はなかった。

横から突っ込んできた大型トラックがまっすぐこちらに向かってきたのを目にした瞬
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