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第3話

ドアから入ってきたのは、友樹だった。

「友樹!?お前、こんな夜中に出かけてたのか?」

友樹はぼんやりと俺を見つめ、「ああ、同僚が失恋してさ、付き合って飲んできたんだ。ごめん、起こしちまったな」と、妙に丁寧な口調で謝ってきた。

なんかおかしい。普段の友樹はこんなに丁寧な言葉を使わないし、さっき部屋からは音楽が聞こえてたはずだ。もしかして出かけるとき、パソコンを切り忘れたのか?

「お前、どうして家のパスワード忘れたんだ?何回もエラーしてたから、俺、泥棒かと思ったぞ」

「いや、ちょっと飲みすぎて、目がチカチカしてさ。数字がダブって見えたんだよ」

友樹は酒が強い方だ。普通、酔っぱらってこんなになるまで飲むのに、どれだけビールを空けたんだ?しかも、失恋したのは同僚で、友樹じゃないのにここまで酔うか?

さらに妙だったのは、こんなに近くにいるのに、全然酒の匂いがしないことだった。

俺は無意識に友樹の部屋の方を見た。ドアは閉まっている。さっきの音楽が頭をよぎり、あのドアがやけに不気味に見えた。

月明かりに照らされた友樹の顔はどこか硬くて、いつもの軽い感じが全然ない。顔色も悪いし、酒を飲んだ形跡もない。何か得体の知れない不安が押し寄せてきた。

俺は手を伸ばしてリビングの電気をつけようとしたが、その瞬間、友樹が一歩飛び出してきて、俺の手首を掴んだ。

「電気はつけるな!」

その声に、俺は反射的に体が震え、友樹の手元に目をやると、鳥肌が立った。

その手はまるでねじれた縄のように変形していて、爪は5、6センチも伸びている。指の一部は白骨が露出して、指先には固まった血の塊がついていた。こんなの、友樹の手じゃない!

いや、これはもう人間の手ですらない!

友樹は虚ろな目で俺を見つめるだけで、特に動く様子はなかった。

それでも、一瞬だけ、彼の目の奥に無限の絶望と苦痛が見えたような気がした。

恐怖に駆られて、考える間もなく俺は友樹の手を振り払い、全速力で自分の部屋に戻り、ドアを閉めると、鍵をかけた。

俺は震える手で青葉からのメッセージを凝視しながら、思わず彼女に再び音声通話をかけていた。

コール音が2回鳴った後、電話がつながった!

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