共有

第5話

さっき見た、ドアの外の友樹の姿が頭に浮かぶ。まさか、あいつはまだ俺たちを許してないってことなのか......

俺はスマホを掴み、警察に通報しようとした。しかし冷たいAIの声が無情に告げる。「おかけになった番号は存在しません......」

え?110すらないのか、この世界は?絶望が一気に押し寄せた。

「カタン」という音がして、カーテンの向こうから何かが転がってきた。

近づいて確認すると、それは俺が以前、青葉にプレゼントしたキツネのブローチだった。あの日、彼女が俺を振ったときにも着けていたものだ。

心臓の鼓動が一気に速くなる。このブローチがどうしてカーテンの後ろから出てきたんだ?まさか、青葉がさっきまでベランダにいたのか?

俺は勢いよくカーテンを引いた。しかし目の前にあったのは、血の気のない友樹の顔だった。

奴はカーテンの後ろ、ベランダの引き戸に寄りかかって、まるで俺を待っていたかのようだった。

恐怖が足元から頭頂まで突き抜け、思わず震えが走った。どうやってこいつ、入ってきたんだ?

その瞬間、青葉の言葉が頭をよぎった。

「他の人は外から君の部屋のドアを開けられないけど、ガラスは通り抜けられる」

俺と友樹の部屋は同じベランダを共有している。あの引き戸は床から天井までのガラスだ!

もしかして、青葉が言っていた奇妙なルールは全部本当なのか?

考える暇もなく、俺は反射的に逃げ出した。だが、ドアにたどり着く前に強烈な力で引き戻された。

振り返ると、思わずまた友樹の手に目がいった。

すると友樹が笑った。「なんでずっと俺の手を見てるんだ?何かおかしいか?」

声の震えを必死に抑えながら俺は答えた。「な、なんでもない。お前の手、綺麗だな......友樹、話せばわかるだろ?」

友樹は俺より頭ひとつ分背が高い。俺は恐怖を押し殺し、冷静を装って顔を上げた。

すると、友樹がまたニヤリと笑った。その笑顔に俺は心臓が止まりかけた。

友樹の口元は、耳まで裂けていた。目玉が飛び出さんばかりに膨らみ、歯はまるで鋸のようにギザギザに変形し、そこから気味の悪い液体が滴っていた......

だが、その恐ろしい表情も一瞬で消え、友樹はまるで何事もなかったかのように無表情で俺を見つめ、「話すか?」と尋ねた。

俺は意を決して、友樹の目を見つめ返し、今までの人生で一番強気な態度で言った。「話そう」

友樹は考え込むように視線を落としたが、しばらく反応がなかった。その時、俺は思い出した。さっきリビングで、あいつが電気をつけられるのを怖がっていたことを。

もしかして、光を嫌うのか?

友樹が気を取られている隙に、俺は自由な方の手を伸ばし、電気のスイッチを押した。

その瞬間、友樹の手が急に離れた。俺は振り返ることもなく、一気に部屋を飛び出した。

玄関を出た先の廊下は、記憶の中のものとは違い、真っ暗だった。唯一明るいのは、開け放たれたエレベーターのドアだけ。

中では白いライトが点滅しながら、微かに明るさを保っていた。暗闇の中で、それはあまりにも魅力的に見えた。

「お前、賢いな」

突然、背後から友樹の声が聞こえた。

背中は冷や汗でびっしょりだった。足が鉛のように重い。

振り返ると、友樹は玄関に寄りかかってこちらを見ていたが、追いかけてくる様子はない。どうやら俺を傷つけるつもりはなさそうだ。

俺はエレベーターに乗って下に降りようとした。

......いや、待てよ!

もし友樹がガラスを通って入ってきたのなら、青葉の言っていたことはおそらく正しい。彼女はこう言っていたはずだ。「絶対にエレベーターに乗っちゃダメ」

エレベーターはダメだ!

でも、階段はどこだ......?元々あったはずの階段の場所は、闇に包まれて何も見えない。

ふと、もう一つの言葉が頭をよぎる。「生き残る道は、時に闇の中に隠されている」

俺は左手に見える暗闇をじっと見つめた。

再び振り返ると、友樹はまだそこにいたが、動こうとはしていない。

俺は迷うことなく、左に曲がり、そのまま暗闇に突っ込んだ。

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status