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第8話

車のロック解除音が鳴り、俺はそちらに目を向けた。ライトが点滅したのは、友樹の車だ。

友樹が車の横に立っている。その友樹は......普通に見える。

さっき、彼が家の中で叫んでいた言葉を思い出した―「お前が外に出れば、俺は助かるんだ!」

もしかして、すべてが元に戻ったのか?

「何してんだよ、まだ座り込んで。早く乗れよ、日の出に間に合わなくなるぞ」

そうだ。今日は日曜日だ。俺たちは朝早くからキャンプに行く予定だったじゃないか。

もしかして、俺はもう普通の世界に戻ってきたのか?

「早くしろよ、智彦。何ボーっとしてんだ?」

俺は立ち上がり、ズボンについた土を払う。友樹は右手を掲げて、車のキーを指でクルクル回しながら、いつものように笑って俺に話しかけている。

俺は車の方へ歩き始めた。しかし、近づけば近づくほど、何か違和感を感じ始めた。

......そうだ、分かった!

そいつは本物の友樹にそっくりだ。キーをクルクル回す癖まで完全に再現されている。でも―友樹は左利きだ!

俺はその場で足を止め、「お前は友樹じゃない!お前は誰だ!?友樹をどこへやった!」

「ちぇっ、またバレちゃったか。お前には騙せないな」

そう言うと、その「友樹」は車のキーをしまい、車に乗り込んだ。

俺のアパートはすぐ近くにある。そいつが車を発進させてすぐ、道の角に差し掛かった瞬間―どこからともなくトラックが飛び出してきて、「ドンッ!」と激しい衝撃音が響いた。

そいつが本物の友樹ではないと分かっていても、俺の心は針で刺されたような痛みを感じた。

俺は無意識のうちに、友樹の名前を叫びながら車に向かって走り出した。

すると、突然強烈な白い光が視界を覆い、俺は思わず目を閉じた。世界が光に包まれていく......
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