私がコーヒーを持ってバルコニーに上がったとき、松田泰雄と宮脇圭織が話をしていた。「ただの檀木の数珠じゃない。そんなに嫌いなの?」松田泰雄はタバコを一本取り出し、目を細めて宮脇圭織を見つめた。「もともとこういう物は好きじゃないんだ。結婚した後、毎日それを見るなんて嫌だよ」宮脇圭織はワイングラスを手にしながら、口元に微笑を浮かべて近づいた。「それとも、私の婚約者さん、それが捨てられないの?」私は言葉を発することなく、無意識に息を止めて松田泰雄の返事を待っていた。彼はどうするのだろう?松田泰雄は少し戸惑ったようだった。眉をひそめ、左手で無意識に右手首を触った。一瞬、彼が断ると思った。しかし、彼は無表情のまま淡々と「ただの数珠だよ、もう飽きた」と言って、バルコニーから隣の小屋裏にそれを放り投げた。私は唇を強く噛んだ。痛みの後に、鉄のような味が口の中に広がった。しかし、感じていたのは、胸をえぐられるような痛みと、心の奥から湧き上がるどうしようもない苦しみだった。
最終更新日 : 2024-10-21 続きを読む