特効薬を手に入れた後、兄の病状は本当に少し改善した。医者は、もうすぐ目を覚ますだろうと言った。翌日、松田泰雄と宮脇圭織は再び話題になった。今度は二人の結婚の話ではなく、松田泰雄が一方的に結婚の解消を発表したという内容だった。その日の午後、松田泰雄は原寿光の別荘の前で三時間も待っていた。私は原寿光に迷惑をかけたくなく、松田泰雄に話さなければならないことがあると思った。原寿光が近づいてきて、手を挙げ、ゆっくりと、ためらいながら私の頭を撫でた。「一緒に行くよ」原寿光と一緒に出ると、松田泰雄は自分の黒いマイバッハに寄りかかり、左手にタバコを持ち、私たちを見ると目を細めた。しかし、彼は原寿光には何も言わず、私に向かって言った。「本当に彼と結婚する気でいるのか?」私は松田泰雄の視線と目が合った。黄昏の中、松田泰雄は固まったまま、灼熱のような視線を私に向けていて、どこか哀願するような表情をしていた。「私に怒っていることはわかっている。会社のために幸優ちゃんを捨てるべきではなかった。宮脇圭織のことは、私は彼女を愛していない。全ての関係を断った。私が愛しているのは幸優ちゃんだけだ」私は冷笑した。「松田泰雄、私たちはもう別れたの。これからはあなたはあなたの道を行き、私は私の道を行く」松田泰雄はうつむき、私を見なかった。私がこれで終わりだと思った瞬間、彼は深く息を吸い、かすれた声で言った。「私が悪かった、あの数珠をあんなに簡単に捨てるべきではなかった。当時、私は会社のことで焦っていて、幸優ちゃんがしてくれたことを考えもしなかった。幸優ちゃん……」彼はまるで藁にもすがる思いで私の手首を掴んだ。「もう一度やり直そう、いいかな?」やり直す?私は松田泰雄を見つめた。彼の眉や目は変わっていなかった。しかし、もしかしたらこれまでの年月の中で、私たちの道はすでにどんどん離れてしまったのかもしれない。私が大切にしていたのは、ただ一つの数珠ではなかった。少し残念に思っている。本当に、かつて彼をこんなにも深く愛していた。しかし、彼はこのことがどれほど重要だと思っているようには見えなかった。私は松田泰雄の手を振り払い、首を振った。「松田さん、私はもうすぐ結婚するわ」そう言いながら、隣にい
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