刑務所を出たその日、空は晴れ渡っていた。看守が私の背中を軽く叩いて、「しっかりやり直せよ」と声をかけてきた。その一押しで少しふらついたが、何とか踏ん張り、荷物を手にして外に出た。門を出た瞬間、目の前に見覚えのある背の高い男が立っていた。カジュアルな格好で、車に寄りかかりながらタバコを吸っていた。端正な顔立ちにどこか品のある佇まいをしていた。橘渉真だった。一方、地面の水たまりに映る私の姿は、3年前のくたびれた長袖を着て、痩せ細り、顔色は土気色。かつての華やかさなんてどこにもない。胸がズキリと痛み、私は袋を握りしめた。視線を落として、彼の前を通り過ぎようとしたが、その時、彼がタバコを消し、大股でこちらに歩いてきた。「葉山桜子?」低い声には苛立ちがにじみ出ていた。思わず一歩後ずさりし、全身が震えた。「くっせぇんだけど」彼は鼻をつまみ、露骨に嫌な顔をした。私は自分の服の匂いを嗅いでみたが、確かに出所前にちゃんとシャワーを浴びたはずだ。でも、長い間便所のそばにいたせいか、あの臭いが体に染みついてしまっているのかもしれない。何も言えずにいると、彼は呆れたように私の襟元を掴んだ。「わ、私......自分で......」か細い声で、どうか自分で帰らせてもらえないかとお願いしようとした。少しでも彼の目に触れないように、遠くへ行きたかった。だが、彼は私の言葉を無視して、無理やり車に押し込んだ。車の中で、彼は臭いが気になるのか、前の窓を大きく開けたまま運転していた。私は隅に縮こまり、風に吹かれて目がしょぼしょぼしてきた。車窓から見える景色は、懐かしさを感じる一方で、どこかよそよそしさもあった。3年という月日が流れていたからだ。今、橘渉真は私を家に送ろうとしている。でも、私に家なんてまだあるのだろうか?両親がドアを開けて橘渉真を見たら、笑顔を浮かべた。「渉真くん、来てくれたのね!どうぞ中へ入って、美紀が君を待っていたのよ」母は嬉しそうに彼の手を取ろうとしたが、彼はそれをさりげなく避け、桜子を送り届けただけだと冷静に伝えた。その瞬間、両親の笑顔が消えた。父は眉をひそめて何か言おうとしたが、母は橘渉真を一瞥して、すぐにそれを遮るように声を張り上げた。「桜子、帰ってきたのね!」
Last Updated : 2024-10-15 Read more