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離婚後、恋の始まり のすべてのチャプター: チャプター 441 - チャプター 450

462 チャプター

第441話

里香はただ、いつになったらこの結婚生活を終えられるのか、そればかりを考えていた。雅之が歩み寄り、そっと手を差し出した。黒のドレスを身にまとった里香は、気品が漂い、高貴な佇まいを見せていた。美しい顔立ちはどこか繊細で、その瞳には静かな清らかさが浮かんでいる。細い腰と柔らかなヒップラインが絶妙で、周りの視線を自然と引きつける。雅之の手に、自分の手をそっと重ねる里香。彼はその手をしっかりと握り、強い感情を瞳に宿しながら低い声で言った。「里香、君は本当に美しい」里香はふっと微笑んで、「ありがとう。でも、今さら?」と軽く返す。雅之は少し困ったような顔をしたが、怒るでもなく、その目の中には柔らかな光が一層強まっていく。月宮の助言に従っているのか、いつもより優しい雅之。そんな彼に里香も距離を保ちながらも、この二日間は静かに過ごせていた。――もしこのままなら、案外やっていけるのかもしれない。そう思わせるには十分な時間だった。二人はそのまま二宮家の屋敷を出て、車に乗り込んだ。二宮おばあさんの誕生日パーティーは、本宅で開催される予定で、招待客は冬木の上流階級ばかり。華やかな一流女優も、ただの添え物にすぎない。敷地に到着し、車を降りると、豪華な赤いカーペットが玄関から庭までずらりと敷かれていた。細部まで飾り立てられた庭の赤い横断幕には、おばあさんへの祝辞が綴られている。「雅之様が来たわ!」「見て、隣の女性って誰?」「噂によると、奥さんらしいよ!」周囲からのひそひそとした声が聞こえてくる。雅之は端整な顔立ちを冷ややかに引き締め、何も言わずに里香を連れて邸宅へと進んだ。そこには、友人たちと話していた正光がいた。雅之と里香が現れた瞬間、彼の表情が一瞬固まった。「ちょっと失礼」正光は軽く友人たちに挨拶し、すぐに雅之に歩み寄ってきた。「雅之、彼女を連れてくるなって言ったはずだ。彼女がどんな立場か分かっているのか?こんな場所には相応しくない」怒りを抑え、低い声でそう言う正光に対し、雅之は冷淡に返した。「彼女は僕の妻だ、正真正銘の」正光は何とか怒りを抑えつつ、「彼女のこと、誰かに紹介でもしたのか?」と問い詰めた。「忘れてたな」と、雅之はさらりと答え、執事を呼ぶと、わざとらしく大きな声でリビングの客人にも聞こえるよう
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第442話

雅之が振り返ると、冷たい表情の里香と目が合った。そのくっきりとした目元は、今やまるで氷のように冷ややかだ。もし今「出ていくよ」と言えば、里香は迷わず席を立つだろうな、と雅之は感じた。彼は少し沈んだ表情で小さくつぶやく。「周りなんか気にしなくていい」里香は彼を見て、口角を少し上げて笑ったが、その笑顔は目元には全く届いていなかった。「雅之、私がこうなったのは全部あなたのせいよ。せめてお金くらいで償ってくれなきゃ」雅之は少し眉をひそめ、「......お前、金しか頭にないのか?」里香は肩を軽くすくめ、「愛なんてもういらない。だったら、お金くらい欲しいでしょ?」そう言われると、雅之の顔色がさらに険しくなり、周囲に冷たいオーラが漂うのがわかる。里香はふっと視線を外し、「ところで、おばあちゃんはどこ?」と聞いた。雅之もその瞬間少し冷静さを取り戻し、彼の中に渦巻いていた感情も少し和らいだようだった。愛なんていらない?本当に、簡単に捨てられるものなのか?雅之はそのまま里香を連れて階段を上がっていった。2階の部屋に着くと、ドアはすでに開いていて、中には数人が集まっていた。月宮が二宮おばあさんの隣で、笑い話をしておばあさんを楽しませている。「おばあちゃん」雅之が部屋に入ると、里香も続いて声をかけた。「おばあちゃん」二宮おばあさんは里香を見るなり、ぱっと目を輝かせ、手を振った。「お嫁さんだ!よく来たねえ!待ちくたびれちゃったわ!」里香は歩み寄り、おばあさんの手を取り、にっこり微笑んだ。「おばあちゃん、私も会いたかったです」二宮おばあさんはじっと里香を見て、急に心配そうに言った。「ちょっと痩せたんじゃない?うちの雅之、ちゃんとご飯あげてるの?もし彼がいじめたら、もう一緒に暮らさなくてもいいんだからね!」里香は思わずくすっと笑った。「そうですね、もしそんなことがあれば、おばあちゃんに助けてもらいます」二宮おばあさんもにこにこして、「もちろん、私がしっかり守るからね」と言った。困った顔の雅之がぼそりと口を開いた。「もし彼女が僕と別れたら、おばあちゃんの大事なお嫁さんがいなくなっちゃうよ」おばあさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに里香の手をぎゅっと握り、「それはダメ!お嫁さんがいないなんて困るわよ!離婚なんて許しませ
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第443話

「彼女って雅之様の奥さんだよね、結構綺麗だね」「それがさ、ちょっと綺麗だからって調子に乗って、ずっと雅之様にまとわりついてるんだよ。噂によれば、記憶喪失の雅之様を助けたらしいけど、それがきっかけで結婚して、雅之が記憶を取り戻した後も、別れるのを全然承知しないって」「まあ、金づるを逃すわけがないよね」「このままじゃ、二宮家はこの女に絡み取られちゃうんじゃない?」「......」周囲では囁くような声が聞こえ始めた。人々は里香を好奇な目で見たり、軽蔑の目で見たりするが、親切に見る人はいない。里香はその視線を全て察しつつも、伏し目がちに微笑みを保った。長い祝辞が終わり、宴も始まった。二宮おばあさんは里香の手を掴んで離さず、食事にも行こうとしない。その様子を見て、由紀子が言った。「里香、少しおばあさまの相手をしてくれる? 私たち、挨拶回りしなきゃ」「わかりました」里香は頷いた。できるだけ早く、こんな気まずい場から離れたかった。二宮おばあさんを車椅子に乗せて、庭から出て花園へ向かった。そこは人があまりおらず、とても静かだった。「嫌いだ」突然、二宮おばあさんが言った。里香は疑問に思い、前に屈んで尋ねた。「おばあちゃん、何が嫌なんですか?」二宮おばあさんは口を尖らせ、「あの人たち、嫌いよ!全員追い出してやりたい!」まるで子供のように顔をしかめ、全身で不満を表している。里香は笑って、「皆、お誕生日のお祝いに来てくれたんですよ」二宮おばあさんは「ふん、いらないわ!」と鼻を鳴らした。里香はその様子に思わず笑ってしまったが、すぐに「お腹すいてませんか? 何か食べます?」と聞いた。二宮おばあさんは首を振り、「いらないわ、花の冠が欲しいのよ」里香はびっくりした。二宮おばあさんが以前編んであげた花冠のことをまだ覚えていたなんて。「じゃあ、編んであげますね」里香は周囲を見回した。花園にはいろいろな花が満開で、どれも美しかった。「うん、お願いね!」二宮おばあさんは車椅子に座ったまま拍手を打ち、まるで子供のように喜んでいた。里香は花々の中に身を入れ、一心不乱に花を選んでいた。「キャ――!」そのとき、突然二宮おばあさんの悲鳴が響き渡った。 里香は急いで振り向くと、二宮おばあさんの車椅子が下り坂に向
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第444話

最初に到着した人が里香を指さしながら言った。「私が着いた時、彼女はおばあさんの隣に立っていて、おばあさんはずっと泣いていた」みんなの視線が里香に向けられた。「彼女がおばあさんを連れ出したんだ。彼女、おばあさんに何かしたんじゃないか?」「でもおばあさん、彼女のこと好きみたいだったけど。そんなことないんじゃない?」「お前にはわかってないよ。こんな女は男を騙せるし、おばあさんだってうまく誤魔化せるさ。私たちの知らないところで、おばあさんに何かヤバいことしたに違いない」「......」雅之の父、正光が里香に険しい顔を向けて、「一体どういうことだ?」と問いただした。里香は深く息を吸い込み、どうしてこうなったのか一通り説明した。そして最後に「信じないなら、監視カメラを確認できますよ」と言った。正光は一瞥を執事に送ると、執事はすぐに監視カメラをチェックしに行った。五分後、執事が戻り、少し複雑な表情で言った。「ご主人様、若奥様は、監視カメラの映らない死角におばあさまを連れていったようで、そこで何が起こったのか映像には残っていません」正光の顔色はさらに険しくなっていった。「里香、一体おばあさんに何をしたんだ?こんなこと考えるなんて本当に恐ろしい女だな!おばあさんが認知症だと分かっていながら、よくも彼女を傷つけたりする気になったな!」里香はすぐさま頭を振る。「私じゃないです!」彼女は急いで二宮おばあさんの方を向き、証言してくれることを期待した。しかし、二宮おばあさんは明らかに怯えており、大声で泣き叫ぶのは止まったものの、まだ小さくすすり泣いていて、見るからに哀れだった。里香は焦燥感に駆られ、なんとか冷静を取り戻すよう努め、続けた。「そうだ、もう一人います。ここで働いている使用人が、滑りそうになった車椅子を止めてくれたんです。彼なら証言してくれます!」正光は鼻で笑いながら、「もうお前の言い訳を聞いている暇は無い。誰か、この女を閉じ込めておけ。事実が判明したら、解放する!」と命じた。「かしこまりました!」執事はすぐに使用人を呼んで里香の口を押さえ、彼女を無理やり別の出入口から引きずり出した。「うぅ......!」里香はもがきながら何かを言おうとしたが、正光は彼女を無視していた。一方、雅之は二宮家唯一の息子で、こ
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第445話

雅之は冷たく一言、「ああ」とだけ答えたが、階段を上がる代わりにスマホを取り出し、里香に電話をかけ始めた。彼女も少し自由が欲しかったのかもしれないけど、せめて一言ぐらい声をかけてくれてもよかったはずだ。何も言わずに出て行くなんて、僕のことなんて気にも留めてないのか?通話ボタンを押すと、無機質な自動メッセージが流れてきた。「この電話は電源が入っていません」。電源が切れてる?雅之の顔に不機嫌な影が走った。その時、使用人が様子を伺いながら声をかけた。「雅之様、ご主人様がみなみ様の件でお呼びです。急いでいらしてください」雅之の目が冷たく鋭く光り、まるで威圧するような雰囲気が使用人に圧し掛かり、彼はさらに頭を下げた。スマホをしまいながら、里香の冷たい態度を思い出すと、雅之の目に微かな嘲笑が浮かんだ。どうせ、わざと電源を切って僕から逃げてるんだろう。心に小さなわだかまりを抱えたまま、彼は無表情で書斎へ向かった。ノックもせずにドアを開けると、父の正光が椅子に座り、その前に使用人の女性が跪いているところだった。机で隠れてはいたが、この場の雰囲気からして何が起きていたのかはすぐにわかった。正光の表情が一気に険しくなり、「ノックもしないで入ってくるとは、礼儀知らずが」と怒鳴った。雅之は冷めた目で彼を見つめながら、「僕に礼儀があるかどうか、一番よく知ってるのは父さんじゃない?」と返した。父は不快そうな顔をし、息子に見られた気まずさがにじんでいた。彼は使用人に先に出るように指示し、身だしなみを整えながら低い声で尋ねた。「みなみのことを調べろと言ったが、進展はどうだ?」雅之は淡々と答えた。「何もないよ」正光の目が鋭くなり、「何もないのか、それともやる気がないだけか?お前、まさかみなみが帰ってこない方がいいと思ってるんじゃないだろうな?あれだけ可愛がってもらったくせに、帰りを望まないなんて冷血すぎるだろう」雅之は入り口に立ったまま、少しも近寄らず、嫌悪感を感じつつ冷淡に言った。「父さんが勝手に生きてるって信じてるだけだろ?あの焼けただれた姿を忘れたのかよ?彼が生きてるなんて、どうかしてる」しばしの沈黙の後、雅之は皮肉めいた笑みを浮かべて、「父さん、健康には気をつけた方がいいよ。欲張りすぎると、髪が抜けちゃうかもね」と言った。「お
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第446話

正光は低い声で言った。「これまで俺がしっかりと彼を教えなかったから、彼がこんな風になったんだ。もう放っておけない。彼の言うことは正しい、今の二宮家には彼しか後継者がいない。彼には何か問題を起こさせるわけにはいかない。彼には家門にふさわしい妻を見つけて、最高の後継者を産ませる必要がある」彼の目に嫌悪の色が現れた。「小松里香のような身分では、二宮家の嫁になる資格なんてない」由紀子は言った。「でも、雅之は里香のことが本当に好きみたいよ」正光は言った。「ああいう貧乏家庭の女は、あてにならない感情にばかり執着するものだ。雅之が浮気していることに里香が気づけば、彼女は必ず離婚をするように騒ぐだろう。今は確かに彼女に夢中かもしれないが、女が騒ぎ立てて醜態を晒し、最初の魅力を失えば、雅之はまだ彼女を好きでい続けると思うか?」正光はこの事をよく理解していた。なぜなら、彼と雅之の母親も同じ理由で離婚してしまったのだ。由紀子は聞きながら、少し目を伏せ、目の奥に冷ややかな感情が一瞬浮かんだが、表情には出さずに言った。「今夜やるの?」正光は言った。「今日はおばあさんの誕生日祝いだ、こんなことを台無しにしてはいけない。その後、機会を見つけてくれ。それに、適当な相手も探しておけ」由紀子は頷いて言った。「わかったわ」正光は続けた。「客人たちのところに行ってくれ」「うん」二人は一緒に書斎を出た。湿っぽく腐った匂いのする物置部屋。温度は低く、里香は寒さに震え、自分の身体をぎゅっと抱きしめた。スマホの電池はもう切れてしまっている。誰とも連絡が取れない。外には誰も通りがかる気配はなく、このまま閉じ込められ続けるのだろうか?そんなことは耐えられないし、ここで待つしかないわけにはいかない。何か手を打たなければ!里香は歯を食いしばって立ち上がり、顔色が悪いまま部屋を見渡した。物置にはドアが一つと、窓が二つしかなく、そのうち一つは木の棒で塞がれていた。もう一つの窓は家具で塞がれていた。里香はその家具のそばに行き、それを押し試してみた。動かせることが分かると、彼女は歯を食いしばりながら押し始めた。埃が舞い上がり、里香は手で顔の前を払って、ようやく窓の前にたどり着き、窓を開けて外を覗いた。外は森が広がっていた。森の端には塀があり、彼女はスカートを持ち
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第447話

里香はそのまま地下へ降りていった。地下室は上の階よりもさらに冷え込んでいて、彼女が足を踏み入れると同時に、周りの照明が次々と点いていく。彼女は鉄格子のドアの前で立ち止まり、眉をしかめた。「誰が中にいるの?」「り......里香か?」男の声が弱々しく聞こえてきた。ふっと、里香は微かに血の匂いを感じ取った。里香の表情が緊張に染まる。「あんた、誰?」「俺だよ、啓......山本啓だ」里香の瞳孔が一瞬で縮んだ。「啓?本当に啓なの?」彼女は鉄格子にしがみつき、必死に中を覗き込んだ。しかし、真っ暗で何も見えない。「俺だ......助けてくれ。このままじゃ拷問されて死んじまう、まだ死にたくないんだ、頼むよ、助けてくれ」啓の声は懇願そのもので、まるで最後の頼みの綱にすがっているようだった。「私......」助けたいと言おうとした瞬間、里香は思い出した。啓の実の父親ですら彼を見捨てたんだ。自分はただの他人で、助ける資格なんてあるのだろうか?「本当に二宮家の物を盗んだの?」里香が問いかけた。「俺じゃない!」啓は強く反応した。「誰かにはめられたんだ!確かに俺はギャンブルで借金を作った。でも盗むなんて、そんなことするわけないだろ!」「どういうこと?」里香は眉をひそめると、啓は息を詰まらせながら、ゆっくりと話し始めた。「俺はただの運転手で、そもそも屋敷の中に入ることなんかないんだ。でもその日、結衣ちゃんが『ちょっと運んでほしい物がある』って頼んできた。言われるままにある部屋に入ったら、床に色んな物が散らばってて......それを机の上に戻しただけなんだ。でもその数日後、急に二宮家の人間に捕まって『盗んで売っただろう』って言われたんだ。しかも亡くなった二宮のご子息の遺品だって!俺は一切やってない!必死に説明したけど、誰も信じてくれなかった」啓は悔しそうに声を荒らげた。「里香、頼む、助けてくれ。ここにいたくない、ここにいたら、殺される!」里香の表情が険しくなった。「啓、君が言ってること、本当なの?」「嘘ついたら、ひどい死に方してもいいよ......」しばらく考え込む里香。啓がそんなことをする人間じゃないのは分かってる。高校時代、彼とは長い時間を一緒に過ごした。正直で温厚な性格で、人助けが好きな奴だった。た
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第448話

里香は少し考え込んでから、ゆっくりと口を開いた。「ちゃんと調べてみるよ。もし本当にあなたが濡れ衣を着せられているなら、私が助けてあげるから」啓はその場で崩れ落ち、泣き出した。「里香、本当にありがとう!」でも、里香の心は複雑だった。もし啓が、山本おじさんが金のために彼を見捨てたことを知ったら、どんな気持ちになるだろう?同時に、里香の胸には冷たい疑念が湧いてきた。もしこれが誰かの仕組んだ罠だとしたら、そいつの目的は一体何だろう?なぜ、わざわざ一介の運転手を狙う必要があったのか?外に出ると、冷えた身体に少し暖かさが戻ってきたのを感じた。別荘の庭に目を向け、そのまままっすぐ進んだ。まだ帰るわけにはいかない。雅之と会って、きちんと話をつけなきゃ。庭は相変わらず騒がしく、人々が集まっていた。里香が突然姿を現すと、皆一瞬驚いたように固まり、次に驚きと軽蔑が入り混じった視線を彼女に向けた。今の里香の姿はかなりみすぼらしい。ドレスは汚れ、髪も乱れていて、顔や腕には埃や泥がついている。まるで地面から這い出てきたみたいだった。そんな里香を見て、召使いが青ざめ、前に出てきて止めようとした。「誰が出てきていいって言ったんです?早く中に戻って!」里香はその召使いを押しのけて、はっきりと言い放った。「私は二宮家の三男の妻よ。なんで私が止められなきゃいけないの?」召使いは驚いたように目を見開き、呆然と彼女を見つめたが、里香は気にもせずそのまま進んでいき、雅之の姿を見つけた。「雅之、お前の嫁、どうしたんだ?難民みたいな格好して」と、隣に立っていた月宮が里香を見て嘲笑気味に言った。その言葉に反応して、雅之もこちらに視線を向けてきた。里香の様子を目にした瞬間、彼の表情が険しく曇り、彼女に向かって歩いてきた。「どうしたんだ、一体?」目の前の冷たく美しい雰囲気の男を見ながら、里香は怒りをぐっとこらえ、尋ねた。「啓のこと、ちゃんと調べたの?」雅之の眉間にさらに深い皺が寄った。「あの件ならもう済んだだろ?忘れたのか?」もちろん、忘れてなんかいない。当時、里香は雅之と賭けをして、もし自分が勝てば啓を解放してもらうと約束した。でも、現実は里香に冷酷だった。山本おじさんはお金のために、息子を見捨てたんだ。完全に自分の負けだ。でも、
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第449話

執事は、以前に庭園で起きた出来事について少し話し始めた。特に、二宮おばあさんが驚いて大声をあげて泣き叫んだ場面については、まるでその場面が目に浮かぶように語った。執事は少し眉を寄せ、冷たい口調で里香を見やりながら言った。「おばあさまは若奥様のことを大変気に入っていらっしゃるんです。それなのに、なぜ彼女を傷つけられたのか、私には理解できません」里香は眉をひそめ、「私は何もしていませんよ、やったのは私じゃないです」ときっぱり言った。執事は言った。「ですが、使用人が見たのは、若奥様が車椅子を押していたということ。それが原因でおばあさまが驚かれたんです」里香は雅之を見つめ、落ち着いた口調で言った。「おばあさまが花冠が欲しいとおっしゃったので、私は花を摘みに行っていました。物音に気付いた時には、もう誰かが車椅子を押していたんです」「監視カメラを確認したのか?」雅之が冷たく執事を見つめ、低い声で尋ねた。執事は頷き、「確認しましたが、そこはちょうど監視カメラの死角になっていて、何も映っていませんでした」と答えた。雅之の声はさらに冷たくなり、「何も映っていないのに、どうして彼女が車椅子を押したと断定するんだ?それなら、僕だってお前が誰かを使って彼女をはめようとしたと考えてもいいわけだな?」と言い放った。執事は一瞬怯んだ様子で、「雅之様、申し訳ありません!決してそんなことは!」と顔を青ざめさせて弁解した。雅之は冷笑して、「じゃあ、お前が何もしていない証拠はあるのか?」と一歩も引かない。執事は里香に申し訳なさそうな目を向けながら、「若奥様、私の勘違いでした。しかし、まだ調査が終わっていませんので、どうか外に出られるのはご遠慮いただきたく......」と小さく告げた。雅之は冷ややかに言った。「調査が終わっていないからって、なぜ彼女を閉じ込める必要があるんだ?」執事は言葉に詰まり、「......」と口を閉ざした。これは冤罪だ!里香を閉じ込めるよう命じたのは、二宮正光自身だ。自分はただ命令に従っているだけなのに、なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか!執事は冷や汗を流しつつ、「雅之様、こうしておかないと正光様に顔向けできません」と苦しげに言った。雅之は冷淡に言い返す。「それはお前の問題だ。僕には関係ない」執事は口ごもったま
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第450話

雅之は低い声で訊いた。「あの人、見つかったのか?」里香は首を横に振り、「ううん、執事が言ってたけど、今日はマスクをした使用人なんて雇ってないらしいの」と答えた。誕生日パーティーのために急きょ大量のバイトを雇ったものの、厳しい要件があって、使用人がマスクなんかするはずがなかった。雅之の表情はますます冷たくなり、スマホを取り出して電話をかけた。「もしもし?ボス?」聡のだらけた声が聞こえた。「二宮家の旧館の監視カメラを確認してくれ」雅之は時間帯を伝えると、聡の返事も待たずに電話を切った。聡:「......」今日が休みだって言ったのに、ほんと参るな......里香は雅之を見つめて、「あの場所の監視カメラを調べられるの?」と訊いた。雅之は淡々と、「少し待ってろ」と答えた。里香は頷き、監視カメラの映像か、おばあさん自身が弁護してくれるのを頼るしかないと感じていた。ただ、おばあさんはもう寝ているので、起こすわけにはいかない。その時、部屋のドアがノックされた。「雅之、里香、私よ」と由紀子の柔らかい声が聞こえた。「どうぞ」雅之が冷たく答えると、由紀子はドアを開けて、手に持った服を里香に差し出しながら言った。「これ、さっき届いたばかりで、一度も着てないから、よかったら試してみて」里香はそれを受け取って、「ありがとう、由紀子さん」と礼を言った。「気にしないで、欲しいものがあったら遠慮なく言ってね」と由紀子は微笑んだ。里香は服を持ってウォークインクローゼットに入り、着替えを始めた。由紀子が「ファスナーがちょっと特殊だから、手伝ってあげる」と言って、そのまま部屋に入ってきた。雅之は冷淡にその様子を見ていたが、すぐに視線をスマホに戻した。クローゼットの中で、里香は品のあるシンプルなワンピースに着替えた。膝が隠れる丈で、細い足首が際立つようなデザインだ。ウエストも絞られていて、彼女のスタイルが際立っていた。ファスナーの位置は確かに少し変わっていて、由紀子が手を伸ばしてファスナーを上げてくれた。「本当に似合ってるわ」里香は鏡の中の自分を見つめた。控えめな黄色のドレスが、彼女を瑞々しいデイジーのように引き立てていた。由紀子はふとため息をつき、「あなたが二宮おばあさんを傷つけるわけないのはわかってる
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