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第443話

「彼女って雅之様の奥さんだよね、結構綺麗だね」

「それがさ、ちょっと綺麗だからって調子に乗って、ずっと雅之様にまとわりついてるんだよ。噂によれば、記憶喪失の雅之様を助けたらしいけど、それがきっかけで結婚して、雅之が記憶を取り戻した後も、別れるのを全然承知しないって」

「まあ、金づるを逃すわけがないよね」

「このままじゃ、二宮家はこの女に絡み取られちゃうんじゃない?」

「......」

周囲では囁くような声が聞こえ始めた。

人々は里香を好奇な目で見たり、軽蔑の目で見たりするが、親切に見る人はいない。

里香はその視線を全て察しつつも、伏し目がちに微笑みを保った。

長い祝辞が終わり、宴も始まった。二宮おばあさんは里香の手を掴んで離さず、食事にも行こうとしない。

その様子を見て、由紀子が言った。「里香、少しおばあさまの相手をしてくれる? 私たち、挨拶回りしなきゃ」

「わかりました」

里香は頷いた。できるだけ早く、こんな気まずい場から離れたかった。二宮おばあさんを車椅子に乗せて、庭から出て花園へ向かった。そこは人があまりおらず、とても静かだった。

「嫌いだ」

突然、二宮おばあさんが言った。

里香は疑問に思い、前に屈んで尋ねた。「おばあちゃん、何が嫌なんですか?」

二宮おばあさんは口を尖らせ、「あの人たち、嫌いよ!全員追い出してやりたい!」

まるで子供のように顔をしかめ、全身で不満を表している。

里香は笑って、「皆、お誕生日のお祝いに来てくれたんですよ」

二宮おばあさんは「ふん、いらないわ!」と鼻を鳴らした。

里香はその様子に思わず笑ってしまったが、すぐに「お腹すいてませんか? 何か食べます?」と聞いた。

二宮おばあさんは首を振り、「いらないわ、花の冠が欲しいのよ」

里香はびっくりした。二宮おばあさんが以前編んであげた花冠のことをまだ覚えていたなんて。

「じゃあ、編んであげますね」里香は周囲を見回した。花園にはいろいろな花が満開で、どれも美しかった。

「うん、お願いね!」

二宮おばあさんは車椅子に座ったまま拍手を打ち、まるで子供のように喜んでいた。

里香は花々の中に身を入れ、一心不乱に花を選んでいた。

「キャ――!」

そのとき、突然二宮おばあさんの悲鳴が響き渡った。 里香は急いで振り向くと、二宮おばあさんの車椅子が下り坂に向
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