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第441話

里香はただ、いつになったらこの結婚生活を終えられるのか、そればかりを考えていた。

雅之が歩み寄り、そっと手を差し出した。

黒のドレスを身にまとった里香は、気品が漂い、高貴な佇まいを見せていた。美しい顔立ちはどこか繊細で、その瞳には静かな清らかさが浮かんでいる。細い腰と柔らかなヒップラインが絶妙で、周りの視線を自然と引きつける。

雅之の手に、自分の手をそっと重ねる里香。彼はその手をしっかりと握り、強い感情を瞳に宿しながら低い声で言った。

「里香、君は本当に美しい」

里香はふっと微笑んで、「ありがとう。でも、今さら?」と軽く返す。

雅之は少し困ったような顔をしたが、怒るでもなく、その目の中には柔らかな光が一層強まっていく。月宮の助言に従っているのか、いつもより優しい雅之。そんな彼に里香も距離を保ちながらも、この二日間は静かに過ごせていた。

――もしこのままなら、案外やっていけるのかもしれない。そう思わせるには十分な時間だった。

二人はそのまま二宮家の屋敷を出て、車に乗り込んだ。

二宮おばあさんの誕生日パーティーは、本宅で開催される予定で、招待客は冬木の上流階級ばかり。華やかな一流女優も、ただの添え物にすぎない。

敷地に到着し、車を降りると、豪華な赤いカーペットが玄関から庭までずらりと敷かれていた。細部まで飾り立てられた庭の赤い横断幕には、おばあさんへの祝辞が綴られている。

「雅之様が来たわ!」

「見て、隣の女性って誰?」

「噂によると、奥さんらしいよ!」

周囲からのひそひそとした声が聞こえてくる。雅之は端整な顔立ちを冷ややかに引き締め、何も言わずに里香を連れて邸宅へと進んだ。

そこには、友人たちと話していた正光がいた。雅之と里香が現れた瞬間、彼の表情が一瞬固まった。

「ちょっと失礼」

正光は軽く友人たちに挨拶し、すぐに雅之に歩み寄ってきた。

「雅之、彼女を連れてくるなって言ったはずだ。彼女がどんな立場か分かっているのか?こんな場所には相応しくない」

怒りを抑え、低い声でそう言う正光に対し、雅之は冷淡に返した。

「彼女は僕の妻だ、正真正銘の」

正光は何とか怒りを抑えつつ、「彼女のこと、誰かに紹介でもしたのか?」と問い詰めた。

「忘れてたな」と、雅之はさらりと答え、執事を呼ぶと、わざとらしく大きな声でリビングの客人にも聞こえるよう
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