雅之はその時、みなみの手を振り払い、「僕がどうしようと、兄さんには関係ないだろ」と冷たく言い放ち、そのまま振り返らずに去っていった。後ろではみなみが彼の名前を叫んでいたが、雅之は一度も振り向かなかった。雅之はふいに目を閉じ、再び開いた時には、その瞳に冷たい光が宿っていた。ちょうどその時、由紀子が部屋に入ってきて、正光の隣にお茶を置きながら、「話は終わったのかしら?里香が来てるわよ」と告げた。雅之は一瞬戸惑い、窓の方へと歩いていった。そこから外に立つ里香の姿が見えた。強い日差しの下、彼女は屋敷の中に入ろうともせず、ただ立っている。雅之にはわかっていた。彼女がこの場所を嫌っていることを。「どうして彼女がここに?」雅之は低い声で尋ねた。由紀子は、「使用人が言うには、啓を探しに来たみたい。何か頼みに来たんじゃない?」と答えた。雅之は無言で唇を引き締めた。正光は冷ややかに雅之を見つめ、「雅之、お前が何をすべきかわかっているだろう」と冷たく言い放った。由紀子は優しい声で、「そんなに厳しくしなくてもいいじゃない。盗まれた物はもう戻ってきたし、啓も一時の気の迷いだったかもしれないわ。それに、里香と知り合いなら、今回は大目に見てもいいんじゃない?」と提案した。だが、正光は冷笑し、「里香なんて、みなみの足元にも及ばない」と一蹴し、雅之に鋭い視線を送りながら、「あの女のために啓を許すようなことがあれば、二宮グループにもう二度と足を踏み入れるな」と告げた。その後、正光は雅之を見ることなくお茶をすすり、由紀子は困惑した表情を浮かべたが、正光が怒っている以上、何も言えなかった。雅之は無言のまま書斎を出ると、使用人に「彼女を帰らせろ」とだけ言い放った。使用人は頷いて、「かしこまりました」と答えた。「待て」雅之は急に呼び止め、眉をひそめて「僕がここにいることは言うな」と付け加えた。「承知しました」使用人はそのまま外に出て行き、里香に向かって「若奥様、お帰りください。奥様はお忙しく、旦那様もご不在です」と告げた。里香は眉をひそめ、「それじゃ、啓はどこにいるの?」と問い詰めた。使用人は首を横に振り、「その件については、私にはわかりかねます」と答えた。里香は少し考え込み、穏やかに「じゃあ、由紀子さんが手が空いたら、私に連絡してって伝
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