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第342話

「里香ちゃん、本当に困ってるんだ。お願い、助けてくれないか?」

電話が繋がると、哀れな中年男性の震える声が聞こえてきた。その声には無力感が満ちていた。

里香は一瞬固まり、すぐに問いかけた。「どうしたの、山本おじさん?ゆっくり話して」

山本は答えた。「今、冬木にいるんだが、電話で一言二言じゃ説明できない。会えないか?直接会って話したいんだ」

里香はすぐに応じた。「いいよ」

里香は山本の今いる場所を聞き、電話を切ると素早く身支度を始めた。

雅之はベッドに腰掛け、彼女をじっと見つめながら問いかけた。「何があったんだ?」

里香は冷たく言った。「あなたには関係ないわ」

雅之の顔は一気に曇った。自分は里香の夫なのに、こんな冷たい態度を取られるとは。

だが、里香は雅之の不機嫌な顔など気にせず、鍵を手に取り、彼を無理やり立たせて家を出た。

「先に行くわね」

そう言ってドアを閉め、雅之を無視して去っていった。

階段の踊り場に立った雅之は、さらに不機嫌になった。里香は彼を洗面もさせず、外に追い出したのだ。

雅之はすぐに電話を取り出し、東雲に電話をかけた。「里香について、何が起きているか確認してくれ」

東雲は短く答えた。「了解です」

山本は安い小さな旅館に滞在していた。里香を見るなり、彼は興奮気味に言った。「里香ちゃん、今頼れるのは君だけだ!」

里香は彼を落ち着かせるように声をかけた。「おじさん、焦らないで、ゆっくり話して」

山本はベッドに座り、深いため息をついた。「実はな、俺の息子、啓が裕福な家で運転手をしているんだが、数日前、突然血まみれの啓の写真が送られてきたんだ。すぐに電話をしたけど、向こうは啓が高価なものを盗んだから、告訴して刑務所に入れると言ってきたんだよ!」

山本はスマホを取り出し、里香にその写真を見せた。「啓はそんなことする奴じゃない!真面目で誠実なんだ、絶対に盗みなんてするはずがない。きっと何かの誤解なんだよ。でも、俺がその家に行っても、全然相手にしてくれないし、啓にも会わせてくれないんだ。警察に行こうかとも思ったけど、証拠があると言われて、どうしても怖くて動けなかった。警察沙汰にでもなれば、啓の人生は終わりだ!」

里香はスマホを受け取り、その写真を見た。啓は手足を縛られ、血だらけでコンクリートの床に放り出されていた。彼女の眉間
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