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第347話

里香は諦めずにインターホンを押し続けたが、結局誰も出てこなかった。

空はどんどん暗くなり、冷たい秋風が肌に刺さるようになっていた。ため息をつき、手を下ろした里香は、仕方なくその場を離れることにした。

ホテルに着くと、ちょうどおじさんがホテルの責任者に追い出されそうになっている場面に遭遇した。

「お客様、当ホテルは改装のため閉店することになりましたので、退去をお願いします」

山本は納得がいかない様子で、「私が来たときは普通に営業していたのに、急に改装だなんてどういうことだ?」と詰め寄る。

しかし、マネージャーは困ったように「本当に申し訳ありませんが、ご理解いただけますよう......」と頭を下げた。

そこに里香が前に進み出て、「本当に改装なの?それとも誰かからの命令?はっきり話してくれないなら、私だって店閉めさせる覚悟よ」と、鋭く問い詰めた。

マネージャーは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに「申し訳ありませんが、何もお話しできません。宿泊費は全額返金いたしますので、ご安心ください」と、再度丁寧に頭を下げる。

里香は険しい顔のまま、おじさんに「もう行きましょう」と声をかけた。

このホテルの人たちも、きっと上からの指示に従っているんだ。

山本はバッグを抱え、深いため息をつきながら里香の後ろに続いた。

「これからどうするんだ?二宮家は啓を絶対に許さないつもりだ。こんなふうに俺を冬木から追い出そうとするなんて、完全に仕組まれた計画だ!」

里香は一瞬、山本を自宅に連れて行こうか考えたが、そこはかおるの家だ。かおるとは親友同士で、自分が住む分には問題ないけど、他の人を連れていくわけにはいかない。

友達との間にも、やはり一線は引かなければならない。

里香は山本に「とりあえず、今夜は日貸しの部屋で過ごしましょう。明日には新しい部屋を見つけますから」と提案した。

日貸しの部屋なら、身分証も要らないし、金さえあれば泊まれる。

山本はそれを聞いてすぐに首を振り、「そんな場所に泊まるより、周りの町に移って、通う方がまだマシだ」と返した。

里香は微笑んで、「私はどのみち部屋を探さないといけないので、気にしないでください」と答えた。

山本はしばらく黙っていたが、やがて「里香ちゃん、本当にすまないな」とぽつりと言った。

「そんなこと言わないでください。おじさんが
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