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第352話

その時、背後から足音が聞こえた。遠すぎず近すぎず、けれど妙に不安を掻き立てるものだった。

周りにはお店もあるし、防犯カメラだってある。それなのに、里香はどうにも落ち着かなかった。

以前の二度の出来事が、里香の警戒心を強めていたせいだろう。足早に歩き出すと、それに合わせるように後ろの足音も速くなった。

振り返る勇気なんてなかった。とっさに目に入ったコンビニに向かって、全力で駆け込んだ。

店内に入って振り返ると、やっぱり男が後ろにいた。しかし、里香が店に入ったのを見て、男はそれ以上追ってくることはなかった。

その瞬間、里香はパニックに陥っていた。

外に出る勇気もなく、窓際の席に座り込むと、震える手でスマホを取り出し、誰かに電話しようとする。

でも、誰にかければいいの?

雅之はさっきあんな風だったし、もう顔も見たくないんじゃないかって思う。電話しても、出てくれるのかどうか......

でも、雅之以外に頼れる人なんている?

こんな大きな街で、誰も頼る人がいないなんて。そう思うと、初めてこんなにも無力感を感じた。

深く息を吐いて顔を上げると、まだ男が外をうろうろしているのが目に入った。まるで里香が出てくるのを待っているかのように。

手のひらには冷や汗が滲んでいた。もう迷っている時間はない。里香は震える指で雅之の番号をダイヤルした。

「プルルル......プルルル......プルルル......」

話中音が響き続ける。そのたびに外をチラッと見て、男の姿が目に入るたびに恐ろしくなって目を逸らしてしまう。

「もしもし?」

やっと電話が繋がった。里香はすぐに、「雅之、今どこ?誰かに尾行されてるの!迎えに来てくれない?」と早口で伝えた。

雅之は「場所を送って」とだけ言った。

「分かった......」胸を撫で下ろす里香。

雅之が来てくれるなら、もう大丈夫。

位置情報を送り、焦りながら待ち続けた。しかし、待てど暮らせど、もう一時間近く経っているのに、雅之は一向に現れない。

どうして?そんなに離れてないはずなのに!

「お嬢さん、もう閉店の時間です」

その時、コンビニの店長が声をかけてきた。ここ、24時間営業じゃなかったんだ。

「すみません、もう一度だけ電話したらすぐ出ます」

もう一度、雅之の番号をダイヤルする。しかし、また話中音。そしてようや
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