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第351話

誰も予想していなかった。里香が話し終えると、突然、雅之が彼女の首を掴んで椅子に押し付けた。彼の目は鋭く、冷たく彼女を射抜くように見つめている。

「今、僕を何て呼んだ?」

里香は驚いて目を見開いた。まさかこんなに怒るなんて、思いもしなかった。

「あなた…...どうして?」

いつも通りの呼び方なのに。

雅之は険しい表情で、冷たく吐き捨てた。

「もう二度と、その呼び方をするな!」

里香は恐怖に震えた。

雅之は彼女を放し、車内のボタンを押す。仕切りが完全に上がるのを待って、冷たく言い放った。

「止めろ」

運転手はすぐに車を止めた。

雅之は里香に目もくれず、「降りろ」と一言。

里香は何が起きているのか理解できず、雅之の冷たい顔を見つめながら震える声で尋ねた。

「雅之、一体どうしたの?」

しかし雅之はさらに冷酷な口調で、

「無理やり降ろさせるなよ」

その言葉に、里香の心臓は強く打ち震えた。彼が本当にやりかねないと分かっていたから、仕方なくドアを開けて外に降り立つ。

ドアが閉まると、車はすぐに走り去った。

秋風が冷たく吹き付け、骨の髄まで寒さがしみ込んでくる。

雅之は一体どうしてしまったのか? なぜ助けてくれないの? そして、啓は一体何を盗んだのか?

もし本当に何かを盗んだなら、どうして警察に届けず、あの家にずっと監禁されているの?

疑問が次々と頭を駆け巡り、心は乱れるばかりだった。

しかし、不思議なことに、今一番気になっているのは雅之のことだった。

彼は一体どうしてしまったんだろう。

一方、車の中で雅之は苛立っていた。里香の「まさくん」という呼び方が耳に残り、その声が記憶の中の声と重なってくる。

「まさくん、こっちにおいでよ。兄貴が面白いもの見せてやる!」

「まさくん、これ好きだろ? レーシングカーだよ。一緒にレース観に行こうぜ! 父さんと由紀子さんには内緒だって」

「まさくん、まさくん......」

その呼び声には、あの頃の無邪気さが溢れていた。だが次の瞬間、頭の中に浮かぶのは炎に包まれた遺体の映像だった。

あの時、雅之はまだ十代だった。ただぼんやりと、みなみが炎に包まれるのを見ていた。みなみはとても苦しんでいたのに、最後に彼に向かって笑みを浮かべた。

「まさくん......しっかり生きろよ」

雅之はイライラとネク
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