三日後、市役所。弁護士同士で手続きを行う時間を決め、鈴と翔平は約束通り現れた。鈴は受け取った書類に迷いなく素早く記入していく。一方の翔平はというと、なかなか筆を進めようとしなかった。鈴はちらりと横目で見て、冷淡な声で言った。「安田社長、急いでるんだけど」催促されると、翔平の顔色は沈み、無言のまま書類に記入を始めた。書き終えた二人は、窓口の職員に書類を提出した。「待て」離婚届に判が押される寸前、翔平が突然口を開いた。職員は思わず手を止めた。まさか朝一番の客が、あの安田グループの社長とその秘書だったとは!最初は長年の付き合いを経て結婚しに来たのかと思いきや、それよりも驚きの展開――まさかの離婚とは!翔平は鈴を見据え、いつもの高圧的な態度で冷たく尋ねた。「本当に、それでいいんだな?」今この女が考え直すなら、勝手に離婚を切り出し、ドバイで自分に余計な出費をさせ、さらには若菜を傷つけたこと――それらはひとまず水に流してやってもいい。彼は、一度だけチャンスをやるつもりだった。「これ以上ないほど、ハッキリしてるわ」鈴は眉をわずかに上げ、赤い唇に余裕の笑みを浮かべた。「何?まだ私がふざけてるとでも思ってる?」翔平は、相手の揺るがぬ態度を見て、胸の奥が重く締めつけられるのを感じた。名もなき感情に引きずられるような感覚――不快だった。彼女が去った数日間、改めて思い知ったことがある。二人はまともに向き合って話し合ったことが、ほとんどなかった。そのせいか、翔平の口調は先ほどよりも幾分和らいでいた。「お前が冷静になる時間をやる。その上で、もう一度ちゃんと話し合おう。俺たちの結婚について……確かに、お互い話し合いが足りなかった」少し間を置いて、さらに言葉を続けた。「お前が安田グループに尽くしてくれたことは、ちゃんと見ていた。考え直すなら、安田家も安田グループも、いつでもお前を迎え入れる」言外に込められた意味は明白だった――彼は、離婚したくない。鈴にも会社を辞めてほしくない。「冷静になる必要も、話し合う必要もないわ」鈴は翔平の暗い瞳を真正面から見据え、冷たく決然とした声で告げた。その口調には嘲笑の色すら滲んでいた。「昔はね、心臓まで差し出す覚悟でいた。でもあなたは、それを見ようともしなかった。今さ
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