由佳と高村さんがバスに乗り込むと、一瞬車内が静かになり、すぐに会話が再開された。彼女たちは並んで座れる席を見つけ、腰を下ろした。前方の席に座っていた若い男性が笑顔で声をかけてきた。「お二人はどちらのご出身ですか?オーストラリアに働きに来られたんですか?それとも旅行ですか?」その隣に座る友人は由佳を何度かチラ見したが、何も言わずにそっぽを向いた。さらに前の席に座る中年の男性も親しげに話しかけてきた。「お二人の年齢からすると、学生さんではないみたいだね」高村さんは笑顔で答えた。「私たちは旅行のために来た。出身は虹崎市の方です」出身地の話になると、車内の雰囲気が一気に活気づいた。各地の出身地を言い合ったり、同郷を探したり、同郷じゃなくても「友達に虹崎市の出身地の人がいるよ」などと親しみを込めて話しかけたりしていた。その後、さらに7、8人が乗り込み、ガイドが名前を確認してから、バスは出発した。車が動き出すと、車内は少し静かになり、各自が思い思いの時間を過ごし始めた。友人同士で話す人もいれば、イヤホンで音楽を聴く人、カメラで景色を撮影する人もいた。その時、若い男性の友人が後ろを振り返って見てから、肘で彼をつつき、声を潜めた。「なあ、後ろの二人の女の子、内側の子、あれ由佳じゃないか?」「由佳って誰?」若い男性はすぐにはピンとこなかった。「忘れた?清次の奥さんだった人だよ!」若い男性は思い出し、驚いて友人に尋ねた。「本当にあの由佳?」「見た感じ、彼女だよ。隣にいるのは友達でメイク担当の高村さんだ」清次と由佳のスキャンダルが出たばかりの頃、彼らの寮でもその話題が出ていた。清次が生まれつき恵まれた環境にいることを羨ましがっていたのだ。普通の人が一生かかってもたどり着けないゴールに、彼は生まれた瞬間から立っていると。若い男性は好奇心を抑えられずに尋ねた。「確か、彼女、少し前に清次と離婚したんじゃなかったっけ?」「そうだよ」友人はため息をつき、小声でつぶやいた。「彼女は清次からかなりの財産をもらったに違いない。今じゃ小金持ちだよ。再婚歴があっても、若くてお金持ち。だけど、ああいう金持ちの世界の男たちは彼女とは結婚しないだろうし。まあ、金は持ってるから、若い男を囲ったりするかもね。もし誰かが彼女に気に入られたら、人生一気に
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