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第367話

  「私が救ったのに、ありがとうの一言だけで、すぐに帰れって言うの?由佳、本当にひどい」

由佳は数秒間黙り込んだ。「ひどいって。あなたも言ったことを守らず、もうついて来ないって言ったでしょ?まさか出張中で空港に偶然いるなんて言わないで」

「もし私がついて来なかったら、あなたがどんなにひどい怪我をしていたか分からなかった。財布を落としたり、怪我をしたり、心配しないわけがない」

「私たちはもう離婚してるの。私のことはあなたに関係ないわ」

「お前——」

清次の顔色が急に暗くなり、目が黒く沈んだ。

由佳は顔色が青ざめた。

清次が一歩近づき、真剣な声で言った。「さっきの言葉、もう一度言ってみろ!」

由佳は「私たちはもう離婚しているので、私のことは関係ないわ」と震える声で答えた。

清次はさらに顔をしかめ、暗い雲がかかったような表情になった。

由佳は後ろに行こうとしたが、壁にぶつかってこれ以上動けなかった。

彼女は頭を縮めるように、少しずつ横にずれた。

清次は大きな手で由佳の顎をつかみ、顔を下に向けてキスをした。

突然目の前に顔が近づき、由佳は一瞬ぼんやりしたが、すぐに反応して力を込めて押し返した。

「むぐっ……」

清次の肩はまるで鉄の壁のようで、由佳がどんなに抵抗しても全く動じなかった。

彼は夢中で由佳の柔らかい唇を吸い、舌を彼女の歯の間で自在に動かした。

熱い呼吸が絡み合い、由佳の呼吸は急速になり、ますます息苦しくなった。

清次はその隙に由佳の口を開け、舌を軽く入れた。

「むぐ——」

由佳は目を閉じ、強く噛みついた。

清次は痛みを感じてうめき声を上げたが、退こうとせず、さらにキスを深め、口の中に血の味が広がった。

突然、何かが彼らの重なった唇に落ち、舌でそれを感じると塩辛かった。

清次はすぐに由佳を解放し、彼女の目が赤くなり、涙が流れているのを見て慌てふためいた。

彼は慌てて由佳の目元の涙を拭きながら、「由佳、ごめん。私が悪かった。私が死んでもいいから、泣かないで。ごめん……」と謝り続けた。

由佳はただ黙って涙を流し、声を出さずにいた。その抑えきれない感情が清次の心を痛めさせた。

「由佳、ごめん。ごめん、そんなことべきじゃなかった。私に暴力を振っても、罵ってもいいから、黙らないで」

「暴力を振ったり、罵ったりしても意味がな
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