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第0283話

ビルから出ると、綿の頬に細かい雨が降り始めた。彼女は手を広げて、その雨を受け止めた。

実際、雷が鳴らない雨の日は、綿にとってかなり心地よいものだった。

まさに今のような日がそうだ。

人々の足取りも緩やかで、この静かな時間を楽しんでいるように見えた。

綿は軒下を離れて外に出ると、冷たい雨粒が肩に落ち、その冷たさが何とも言えない感覚をもたらした。

彼女は顔を上げ、しとしとと降り続ける雨をそのまま受け入れた。

玄関近くの水たまりに気づくと、綿はハイヒールを脱いで、その水たまりに子供のように足を浸した。

彼女は幼い頃から水が好きで、4、5歳の頃から泳ぎを始めていたが、今では水を一番怖がるようになってしまっていた。

夜空は暗く、雨が降っているせいか、南城の街は静まり返っていた。外で待ち構えていたマスコミ関係者は、綿が出てきたのを見て、退場すると思った。しかし、彼女が雨に打たれている様子を見て、不思議そうに眺めていた。

もしかして、さっきの嬌の登場で彼女がショックを受けたのか?

綿はマスコミが見ていることに気づかず、完全に自分の世界に没頭していた。

彼女はゃがんで指先で水をすくい上げた。

雨は次第に強くなり、綿はその場でじっとしていた。

その時、背後から足音が近づき、頭上に降っていた雨が突然止んだ。

綿は嬉しそうに顔を上げたが、目の前に立っていた人物を見て、不満げな表情を浮かべた。

「どけて」綿の声には冷たい嫌悪がにじんでいた。

「風邪を引くぞ」男の声は低く、どこか強引な響きを持っていた。

「私は大丈夫」綿は冷たく答えた。彼女は嬌とは違い、少しのことで倒れるような弱い体ではなかった。

「そうか」彼の声はますます低くなり、まるで慰めるような、それでいてどこか適当な感じがした。

綿は彼をじっと見つめた。

彼は自分が濡れるのも気にせず、綿の頭上に傘を差し続けていた。

本当に彼は優しい人に見えた。

綿はふと、先ほど玲奈との会話を思い出した。「じゃあ、どうして彼は私を愛してくれないの?」

綿は指で水をかき混ぜながら、静かに言った。「陸川嬌だけでも十分大変なのに、わざわざここに来て私に傘を差し出すなんて」

「たまたま見かけただけだ」彼の声は穏やかだった。

綿は彼をもう一度見つめた。

たまたま見かけただけ?

そんなこと、信じられるはずがな
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