第0285話

森下は嬌を病院に連れて行き、さらに二人のボディガードを病室の外に配置した。

嬌は涙を流しながら、森下に向かって罵った。「森下！あんたってほんとに犬みたいに主人の言うことばかり聞くのね！」

森下はドアを閉める手を一瞬止め、中の様子をちらりと見た。その顔には次第に険しさが浮かんでいった。

バタン——とドアが閉まり、嬌の泣き声と罵声は遮られた。

森下は病院を出ると、すぐに輝明にメッセージを送った。「社長、無事に処理しました」

雨上がりの南城は、墨色の空が不気味に暗く、空気は澄んでいた。

森下が車に戻ろうとした時、近くに刑務所の車が停まっているのを見つけた。

すぐに制服を着た二人の男が車から降り、病院の救急部のスタッフも駆けつけてきた。

そのうちの一人が電話で「到着しました」と話しながら、救急部に向かおうとした瞬間、森下は「須川隊長！」と呼びかけた。

「ああ、森下さんじゃないですか」須川隊長はすぐに森下の方に向かい、礼儀正しく挨拶をした。

「佐藤旭に何があったんですか？」森下は中を覗き込みながら尋ねた。

「ええ、2823号です。前にどういうわけか食中毒になって、今日はまた食後に体調が悪くなり、夜には泡を吹く症状が出ました。それで急いで病院に連れてきました」須川隊長は深刻な表情で説明した。

森下は少し驚いて、「食中毒ですか？」

「そうです。かなり前の話ですがね」須川隊長はうなずき、「その後、彼が食べたものを調べましたが、特に問題は見つかりませんでした。我々もこの件について調査を続けています」

森下は「そうですか。重症だったんですか？」と尋ねた。

「前回はかなり危険な状態でしたが、今回は早めに発見できたので問題ありません」須川隊長は笑いながら、「何しろ、高杉社長の事件に関わる重要な人物ですからね。しっかり見張っています。死なせることはありません」

森下は眉をひそめ、不審に思った。

刑務所のような場所で、こんな問題が起きるとは考えにくいのだ。

「分かりました、須川隊長。彼をしっかりと見張ってください」森下は頭を下げた。

須川隊長が忙しそうに去ろうとした時、森下は「須川隊長、ちょっと待ってください！」と呼び止めた。

「はい？」須川隊長は振り返った。

「お願いがあるんです」森下は慎重に話し始めた。

「何でしょう？」須川隊長は丁寧に答えた。