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第0290話

綿は驚きを隠せなかった。そんなに深刻な状態だったなんて、鎮静剤まで打たれるとは。

「そうなのよ。今、高杉社長も病室の外で待っていて、陸川のことをすごく心配してるわ」桑原看護士はため息混じりに言った。

この話題が出ると、皆が思うのは、綿が本当に不運だということだった。

綿はすべてにおいて嬌よりも優れているのに、なぜか輝明だけは彼女を選ばなかった。

綿は唇をかみしめ、しばらく考えた後、立ち上がった。「ちょっと様子を見てくるわ」

「やめたほうがいいわ。嬌が目を覚ましたら、何を言われるかわからないし。看護師たちの話では、彼女が情緒不安定な時に叫んでいたのは……」桑原看護士は言い淀んだ。

綿は首をかしげた。何を叫んでいたの?

桑原看護士は困ったように髪を触り、言いにくそうな表情をした。

綿は微笑んで、「大丈夫、言って」

どうせ、嬌が綿について言うことなんて、良いことではないだろう。

「『桜井綿を殺してやる』って……」桑原看護士は申し訳なさそうに答えた。

綿はため息をつき、予想通りだったと思った。

「だから、桜井先生、病院内では気をつけてね。皆、あなたが匿名で告発したと思ってるから」桑原看護士は忠告した。

綿は頷き、彼女の頭を軽く撫でた。「わかったわ、ありがとう。気をつける」

「うん!」桑原看護士は満足そうに微笑んで、その場を去っていった。

彼女には悪意はなく、綿のことが心配だったのだ。

綿はカルテを手に取りながら、次々と問題が起こることにうんざりしていた。

本当に、彼女と嬌の間のいざこざがいつ終わるのか、見当もつかなかった。

綿は深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、入院病棟へ向かった。

到着したとき、輝明は長椅子に座っていた。忙しそうで、電話で仕事の話をしていた。

病室の前には黒いスーツを着た警備員が二人立っており、非常に厳しい雰囲気が漂っていた。

看護師が病室から出てくると、綿に気づき、軽く頭を下げた。

「桜井先生」看護師は挨拶した。

それを聞いて、輝明も顔を上げたが、彼の目には綿への敵意が見えた。

「状態はどう?」綿は看護師に尋ねた。

看護師は首を振り、「あまり良くありません。さっきも突然目を覚まして……」

綿は眉をひそめた。「誰が鎮静剤を打つように指示したの?」

「彼女の情緒があまりにも不安定だったので、私たちは……
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