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第0281話

嬌は一瞬戸惑いながらも、輝明の腕を掴もうとしたが、彼の腕はすり抜けてしまった。

綿はその様子を黙って見つめていた。

輝明は服の埃を払うように軽く手を動かし、その合間に綿を一瞥した。

「陸川易」と輝明は、近づいてきた易に視線を向けた。

易は軽く頷き、嬌の前に立った。

「嬌の体調がまだ完全じゃないだろう。ここは人が多くて落ち着かないから、病院に戻った方がいい」と輝明は冷静に言った。

嬌は一瞬、輝明を見上げ、それから玲奈と話している綿に視線を移した。

唇を噛みしめた嬌は、不満そうに綿を指差しながら輝明に問いかけた。「あたしを帰らせるのは、彼女がここにいるから?」

「違う」と輝明は冷たく答えた。

嬌は微笑んだが、その目には涙がにじんでいた。「明くん、その言葉、本心なの?」

輝明は眉をひそめ、真剣な表情で言った。「嬌、大人しくしてくれ」

嬌は苦笑いを浮かべ、涙をこぼしながら問いかけた。「あたしが大人しすぎるから、こんなふうに扱われてるんじゃないの?」

輝明は答えず、易に視線を送り、彼が何とかするように無言で示唆した。

易は妹を支えたい気持ちがあったが、今日はふさわしい場所ではないと感じた。

ここには多くの目があり、マスコミ関係者がいる可能性もあった。

数日前、輝明の不倫報道で嬌が巻き込まれた件で、陸川家は多大な努力をして事態を収拾したばかりだ。

これ以上の問題は避けるべきだった。

「さあ、病院に戻ろう。送るから」と易は嬌の手を握った。

嬌は首を振り、「嫌よ、帰りたくない!」

まるで取り憑かれたように、彼女は輝明に問いかけた。「もう桜井綿と離婚したのに、どうしてあたしを認めてくれないの?

「明くん、あたしたちは愛し合っているのに、どうしてうまくいかないの?

「今日この場で、あたしたちの関係を公表したらどう?」と嬌は焦ったように輝明の両腕を掴んだ。

周りの人々が興味深そうに彼らを見つめていた。

その時、綿も目を上げてその方向を見た。

嬌は突然、輝明を抱きしめ、その瞬間に綿と目が合った。

他の人に見えないように、綿に敵意を込めた笑みを浮かべた。

綿は二人の親密な様子を見つめ、胸が重くなるのを感じた。

「陸川嬌は何を考えてるんだ?クーデターでも企んでるのか?」秋年はその状況に困惑していた。

玲奈は腕を組み、目には怒りが浮かんでい
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