共有

第0280話

秋年は舌打ちし、玲奈にうまくかわされたと感じた。

「よくわからないな」と秋年は嬌の方に目をやった。

今夜の嬌は、小さな白鳥のように美しかった。病み上がりだからか、どこか儚げで守ってあげたくなるような魅力があった。

嬌は会場に入ると、一直線に輝明の元へ向かった。

彼を取り囲んでいた人々は、自然と道を開けた。

嬌は輝明の前に立ち、口元に微笑を浮かべて言った。「明くん」

「なんでここに?」輝明は驚いて尋ねた。彼女は病院で静養しているはずなのに、なぜここにいるのかと。

嬌は微笑みながら答えた。「もちろん、一緒にイベントに出席するためよ」

「まだ体調が完全じゃないだろう」輝明は低い声で言った。

嬌はすぐに首を振り、「大丈夫よ」と言った。

今や彼と綿が離婚したため、堂々と彼と一緒にどんな場所にも出席できるようになった。そんなチャンスを彼女が逃すはずがないのだ。

「高杉社長、こちらの方は?」と香里がわざと尋ねた。

輝明の冷ややかな視線が香里に向けられた。

嬌の存在をわざわざ紹介する必要があるだろうか?数日前のニュースで騒がれたばかりなのに。

「お友達ですよね?」と香里は自ら場を和ませようと微笑んだ。

嬌は輝明を見つめ、彼がまたしても他人の前で自分を紹介するのをためらっているのを感じた。

この無視される感じが、彼女には耐え難かった。

「あたしたちは友達じゃないわ」と嬌は少し顎を上げ、真剣な表情で香里に反論した。

「明くん、あたしたちの関係って何?」と嬌は輝明を見上げ、正式に自分の立場を認めてもらいたいと願った。

皆の視線が一斉に輝明に注がれた。今夜の主役は完全に彼に切り替わってしまった。

輝明は眉をひそめ、嬌が彼を困らせていると感じた。

今夜は芸能界のイベントであり、彼らが注目を浴びるべき場ではない。なのに彼女は皆の視線を集めたがっているようだった。

そう考えると、彼は無意識に綿を探し始めた。

その時、綿は彼に背を向け、食事に集中していた。この場で何が起こっていようと、彼女にはまるで関係ないかのように見えた。

「またこの女が何かやらかしてるわ」と玲奈は苛立ちを隠しきれずに言った。

秋年は笑いながら言った。「女優さんでも悪態つくんだな」

「悪態だけじゃないわよ。あの女を殴るとなったら、ちゃんとやれるわ」玲奈は嬌を睨みつけ、歯を食いし
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status