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第0180話

綿は、男を一瞬で背負い投げし、床に叩きつけた。

周囲にいた見物人たちはすぐに拍手喝采を送り、「もっとやれ!懲らしめてやれ!」と口々に叫び声を上げた。

「あなたも母親から生まれたんだろうに、どうしてそんなに女に対して憎しみを持っているの?」

男は口元に血をにじませながら、天井を呆然と見つめ、床に横たわったまま手指をわずかに動かした。

綿は冷たい目で倒れた男を見下ろし、指先で軽く口元を拭うと、無表情でありながらも鋭い目つきで手招きし、「男なら立ち上がってみなさい」と挑発するように言った。

その時、男の妻が泣きながら彼の元に這い寄り、綿に懇願した。「お願いだから、もう殴らないでください……」

綿は驚いた。

こんな状況でも、この男をかばうのか?

「お願い、殴らないでください。彼が倒れたら、私たちの家族は終わりなんですよ……」

綿は愕然とした。ここまで来ても、まだ「私たちの家族」だなんて言っているのか。

綿は再び拳を振り上げようとしたが、彼女が必死に男をかばっているのを見て、拳を止めた。

涙を浮かべた妻が「お願いだから、夫をこれ以上殴らないでください……」と訴えた。

その時、「警察が来たぞ!」と誰かが声を上げた。

綿は警察に制止された。

彼女は驚愕の目で妻を見つめた。妻はうつむいたまま、なおも夫の手を握りしめていた。

警察署で。

「何があったんですか?」と警察官が尋ねた。

「ただの家庭内のことです。彼女が勝手に絡んできて、夫を殴ったんです」と妻は小声で説明した。

綿はじっとその妻を見つめていた。

妻は綿を見ようとせず、警察官に向かって「これは私たち夫婦の問題です。法律には触れていないはずです。いつになったら帰れるんでしょうか?」と尋ねた。

彼女は明らかに暴力で傷ついていたが、それでも夫をかばい続けていた。

「桜井綿さん、どうですか?」と警察官が尋ねた。

妻はようやく綿を見上げた。

綿は眉をひそめ、ようやく小栗先生が「患者のことには関わるな」と何度も忠告した意味がわかった。

誰もが自分を道徳的に優れた者だと思い、救世主だと思い、他人を救おうとした。

しかし、振り返ってみれば、自分自身すら救えないのに、世界を救うことなどできるのか?

「私が余計なことをしました」と綿は小さな声で言い、頭を下げた。

その言葉を聞いて、外にいた輝明
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