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第0038話

輝明は目を開け、喉を鳴らして息を吐いた。「俺は……」

「明くん…」

病室の入り口から、突然嬌の声が聞こえた。

綿は反射的に輝明を押しのけ、すぐに身を正して入口を見た。

嬌は唇を噛み、手に弁当箱を持っていた。目には明らかな敵意が浮かんでいた。

綿は二歩後ろに下がり、淡々とした声で言った。「陸川、誤解しないで。この人があなたと勘違いしただけよ」

「そう?」嬌は睨んだ。

そんなの信じるわけ無いでしょう、と彼女は思った。

ベッドの上の輝明を見て、笑った。「明くん、私、来るタイミングが悪かった?」

「冗談はやめて。この人が胃痛を起こして、たまたま私が見つけて連れてきただけよ」綿は余計なトラブルを避けるために嘘をついた。

嬌は二人を見て、内心で怒りが湧き上がった。

この女が嘘をついていることは明らかだ。

誰も彼女に通知していないのに、ここに来た理由、綿は当然察しているはずだ。

それは常に輝明を監視しているのだ!

輝明が酔っ払って最初に行ったのが彼女の家ではなく桜井家だった。この男は何を考えているのか?

嬌は怒りに燃えていたが、顔には出さず、輝明に監視していることを知られないようにしなければならなかった。

そして彼女は笑顔を見せた。「ありがとう、綿ちゃん」

「明くんはいつもこんな感じで、胃が悪いのに自分の体を大事にしないんだから。あなたがいてくれて助かったわ」

綿は首を横に振り、輝明を見つめた。何も言わずに、大股で部屋を出た。

輝明の目は暗くなり、全身が脱力したようだった。

嬌と肩をすれ違うとき、嬌が言った。「綿ちゃん、送って行くわ」

そして弁当箱をベッドのサイドテーブルに置いて、後を追った。

二人は並んで歩きながら、沈黙が続いた。救急を出て階段を下りるまで何も言わなかった。

嬌が口を開いた。「明くんがあんたのところに行ったわ」

綿は彼女を見つめ、続きの言葉を待った。

「綿ちゃん、もう離婚してるんだから、もうやめて。これ以上引きずると、自分が安っぽく見えるだけよ」嬌は冷たい表情で言葉に刺を立てた。

綿は唇を引き締め、冷静に言った。「何が怖いの?」

離婚しないことが怖いのか?

それとも、輝明が自分を愛することが怖いのか?

嬌は顎を上げ、目をしっかりと見据えた。「何も怖くないわ。明くんは絶対結婚すると言ったの。でも、欲張る人に
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