共有

第 0375 話

嬌は輝明の視線を追って背中を数人見ただけで、綿の姿は既に見えなくなっていた。

森下は思わず輝明に対して緊張した表情を浮かべた。

嬌は今回輝明がM国で綿に会ったことを知らなかった。もし知ったら、また大騒ぎになるだろう。

「久しぶりだし、一緒にご飯行かない?」と嬌は輝明の腕にしがみつき、「SKのステーキが食べたいの、連れて行って」と甘えた。

輝明は頷いた。彼には確かに嬌と話したいこともいくつかあった。

「嬌、君のお母さんはどうだ?」と輝明はふと弥生のことを聞いた。

嬌はその話をするや否や怒り出した。「明くん、知ってる?綿が私のお母さんを誘拐したの!お母さんは高層ビルに一晩中吊られてたのよ!どうしてそんなことができるの?」

輝明:「……君のお母さんも綿を吊るしてたじゃないか」

「確かに、うちのお母さんが悪かったけど……でも、だからってあんなことするなんて許せない!」とこの話題で嬌はさらに怒りを募らせた。

いつか必ず仕返しをしてやる!

弥生も四大家族の一員でありながら、母親がこんな屈辱を受けるなんて彼女は耐えられなかった。

輝明は少し眉をひそめ、突然足を止めた。

嬌は振り返り、彼を見つめた。その時彼が尋ねたのは、「嬌、俺と結婚したいのか?」

「もちろんよ」と嬌は唇を尖らせ、輝明との結婚を誰よりも望んでいた。彼女はまるで狂おしいほどそれを願っていた。

輝明は眉をひそめ、まつ毛を伏せた。

この数日間の綿との出来事を思い返し、彼は彼女との関係が完全に終わったことを痛感していた。

彼は約束を果たすべき時が来た。綿と離婚し、嬌と結婚する。

輝明は嬌の手を取り、穏やかな口調で問いかけた。

「もう騒がないで、しっかりと愛情を育もう、いいか?」

嬌にとって、輝明がこんなに真剣に二人のことについて話すのは初めてだった。

彼女は大いに感激し、すぐに頷いた。「ア琛お兄ちゃん、全部あなたに従うわ」

「俺は高杉家のみんなに君を受け入れさせ、君を娶る」輝明の声は低く響いた。

嬌は大きく頷き、「うん」とだけ答えた。

森下はその背中をじっと見つめた。

皆が言うように、当局者が迷い、傍観者は清いものである。だが、この傍観者である彼の目には、輝明の目の中に愛情の一片も見えなかった。

そこにはただの義務感、そして諦め、避けられない運命だけがあった。

飛行機の中で
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status