第0381話

綿は、ついに玲奈の「ペッ」という声に笑ってしまった。

それだけ、玲奈が秋年に対して良い印象を持っていないのは明白で、その全身から嫌悪感が溢れ出ていたのだ。

しかし、今の玲奈はさらに自分自身を嫌っているように見えた。

彼女は一人で隅に座り、両手で頭を掻きむしりながら、まるで自分自身と戦っているかのような表情をしていた。

「どうして私、岩段秋年にキスしちゃったの？

「あんなにたくさんの人がいたのに、なんであいつを選んだの？

「恥ずかしい！なんで岩段秋年なんかに！！」

綿は玲奈に近づき、彼女の肩を軽く叩いた。

その瞬間、玲奈がため息をついたかと思うと、綿のスマホが鳴った。

ディスプレイには「岩段社長」の名前が表示されていた。

綿はそれを玲奈に見せ、「ほら、噂の相手から電話だよ」と冗談交じりに言った。

玲奈は顔をそむけた。秋年のことを考えると、どうしても恥ずかしさがこみ上げてくるのだ。

そう、彼女が先に動いたのだ！なんてことをしたんだ、自分からなんて…！

電話を取ると、秋年の声は驚くほど冷静だった。「桜井さん、今玲奈さんのそばにいる？」

「ええ、ここにいるわ」綿は玲奈を見ながら答えた。「玲奈、さっきマネージャーと話したところよ。会社からも連絡があったんでしょ？」

「その通りだ」秋年の声は低かった。「認めるか、交際していると公表するか、どちらかしかない。彼女はどうしたいのか聞いてくれないか？」

玲奈は即座に答えた。「もちろん、認めないわ！」

秋年は3秒ほど沈黙した。

認めないのも一つの選択肢だ。

「だが、玲奈さん。君は目立ちすぎる」

彼女が秋年にキスをしたあの瞬間、ファンなら一目で玲奈だと分かってしまうだろう。

玲奈は眉をひそめた。「じゃあ、交際しているってことにするしかないの？」

「他にもっといい方法があるのなら、ぜひ教えてほしいね」秋年の声は相変わらず冷静だった。

玲奈は言葉を詰まらせた。

彼女には他の方法が思い浮かばなかった。

「撮影中の一コマだったって言うのはどう？」綿が提案した。

「それはあまり信じてもらえないだろう」秋年は反論した。

二人は沈黙したままだった。

玲奈はしばらく考え込んだ後、淡々と言った。「会社に処理してもらおう。それが一番だわ」今は二人とも表に出るべきではない。

「このまま黙っていても、事態