第 0351 話

輝明は綿の前に現れた。

彼はリンゴをかじる綿を見つめ、その眼差しには複雑な色があった。

綿は顔を上げ、ちょうど彼の深い瞳と目が合った。

輝明は片手をソファの背に置き、少し前かがみになって「見たんだ」と言った。

綿は一瞬止まり、それから輝明を見た。「何を見たの？」

彼は笑い、目に危険な光が一瞬よぎった。綿は彼の目を見つめ、そのまま彼の鼻先、唇に目を移した。

彼は眉を上げ、かすれた声で言った。「放置された建物、弥生、君」

綿は思わず彼の視線を再び見つめ返した。

「それで？」綿は微笑みながら落ち着いて問い返した。「警察に通報するの？」

輝明は目を細め、慌てる様子のない綿の顔をじっと見つめ、舌打ちをした。「綿、君の新しい一面を知ることができたよ」

「確かにね、まだまだあなたの知らないことが多いのよ。あなたと結婚したこの数年、本当に窮屈で仕方がなかったわ」綿は微笑み、思ったことをそのまま口にした。

言い終わると、綿はまた一言付け加えた。「そうね、嬌に彼女の母親が誘拐されたことを教えてあげたらどう？その後でまた英雄劇を演じるわけ？」

綿は顎に手を当て、まるで考えているような仕草をした。「ああ、高杉さん、本当に忙しいわね。一人を助けたら次はまた別の人？」

輝明は冷たく笑った。「綿、俺は救援隊じゃないんだ」

綿の顔から表情が消え、冷静に輝明を見つめた。「じゃあ、なんで私を追いかけてきたの？」

「偶然見かけただけだ」と、何事もなかったかのように答えた。

綿は満面の笑みを浮かべ、どこか楽しげに問いかけた。「病院でちゃんと休んでいないで、何を外に出歩いてるの？まさか白月光が悲しんで、それを慰めに行ったんじゃないの？」

「ちっ。もしかして綿、嫉妬してるのか？」輝明は綿の表情を探るように見つめた。

彼女は本当に装うのが上手だ。その杏のような目には不自然なほどの平静が漂っている。人を観察することに長けているこの彼でも、綿のことはどうも見通せない部分がある。

「嫉妬？あなたに？」綿は輝明を突き放し、ため息をついた。「輝明、自分の姿を鏡で見てごらんなさいな」

輝明の顔から表情が消えた。

綿は彼をじっと睨みつけ、頭から足先まで見渡してから、口を歪ませた。「あなたなんて」

輝明：「……」本当に口が達者なやつだ。

「もう休むから、私の病室から出てって」綿はベ