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第60話 彼女の帰国

鈴楠はそう言い残して、個室に戻り、意志を連れてその場を後にした。

車に乗り込む前、彼女はふと自分のバッグを個室に置き忘れたことに気づく。

バッグを取りに戻ろうとすると、意志が彼女を止めた。「俺が取ってくるから、車の中で待ってて」

そう言い残して意志は行ってしまったが、鈴楠は少し考えおいかけようとしたが、思いがけず慶一と圭一が一緒に出てくるのを見た。面倒を避けるため、追いかけず入り口の噴水の反対側で待つことことにした。

圭一が軽く舌打ちをした。「苑里が帰国するって聞いたけど?」

慶一は沈んだ声で「うん」と言った。

圭一は笑って言った。「久しぶりだな、彼女に少し会いたくなったよ。確かに彼女が悪かったけど、お前の罰はちょっと厳しすぎるんじゃないか?身内なんだから、許してやれよ......」

二人はそう話しながら、車に乗って去っていった。

午後の空はどんよりと曇り、冷たい風が空気に漂っていた。

鈴楠は視線を外し、ぼんやりと前方を見つめたまま、胸に重苦しい痛みを感じた。

苑里は彼らにとって「身内」だ。だが、鈴楠がどれだけ努力しても、慶一にとって彼女は所詮「外部の人間」にすぎないのだろう。

過去の記憶が押し寄せ、苑里の名前は3年間も彼女を縛り続けた呪縛のようだった。彼女はもうその呪縛からもう解放されたと思っていたのに、この名前を聞くと息が詰まるなんて。

情けない......!

あのパーティーの後、苑里が海外に行ったことは知った。もう自分の目の前にいないのなら、追及するつもりもなかった。

でも、彼らにとって、苑里を国外に行かせることが「罰」なのだろう。

彼女が戻ってくるのも、慶一が一言「許す」と言えば済むことなのか?

なんだか急に笑えてきた。あの3年間の彼女の血は一体なんだったのだろうか?

他の人が彼女を許しても、鈴楠だけは絶対に許さない!

苑里が戻ってくるんだろう?

彼女は大歓迎だし、しっかりとお返しの「贈り物」も用意しておくつもりだ。

その時、背後から意志がバッグを手に歩み寄り、彼女の顔色が悪いことに気づき、心配そうに声をかけた。 「どうした?体調でも悪いのか?」

彼の言葉で我に返り、鈴楠は笑顔を見せた。 「大丈夫。車が来てるから、帰るね」

「俺が送るよ」意志は有無を言わさず、彼女を車に乗せ、自分も隣に座った。

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